サムスンは、国際固体回路会議(ISSCC)で次世代LPDDR5メモリの転送速度を12.7 GT/s(12,700 MT/s)に引き上げる技術を発表した。この進化を支えるのは、「4フェーズ自己校正ループ」と「AC結合型トランシーバーイコライゼーション」という2つの高度な回路設計だ。

これらの技術により、従来のLPDDR5Xを超える安定した高速データ転送が可能となる。12.7 GT/sのLPDDR5-Ultra-Pro DRAMは、AI、AR/VR、サーバー用途などでの活用が期待され、PCやサーバー向けのLPCAMM2モジュールにも応用される可能性がある。

サムスンの測定結果によると、この新メモリは1.05Vで動作し、10.7 GT/s時には0.9Vでも安定動作するという。これにより、次世代デバイスの処理能力向上と省電力化が両立され、より高性能なモバイル機器やコンピューティング環境の実現が加速するだろう。

サムスン独自のメモリ技術が生み出す12.7 GT/sの革新

サムスンが新たに発表したLPDDR5-Ultra-Pro DRAMは、従来のLPDDR5Xを超える12.7 GT/sの転送速度を実現する。これを可能にしたのが、サムスン独自の「4フェーズ自己校正ループ」と「AC結合型トランシーバーイコライゼーション」だ。これらの技術は、メモリのデータ転送における精度と安定性を向上させ、特に高負荷環境下でのパフォーマンスを最大化する。

「4フェーズ自己校正ループ」は、クロック信号の精度を保つことで、データの正確な転送を可能にする。この技術により、フェーズスキューの影響が最小限に抑えられ、極限の転送速度でもエラーを発生させずに安定した動作が可能となる。一方、「AC結合型トランシーバーイコライゼーション」は、高速信号の劣化を補正し、長距離伝送でも信号品質を保つ役割を果たす。特に10,000 MT/s以上の速度での信号の減衰や干渉を防ぐために設計されており、サムスンの測定結果でも安定動作が確認されている。

これらの技術は、JEDECの標準規格には含まれていないサムスン独自のアプローチであり、今後の業界標準に影響を与える可能性もある。特に、PCやサーバー向けのLPCAMM2モジュールへの応用が進めば、より幅広いデバイスでこの超高速メモリの恩恵を受けることができるだろう。

次世代デバイスに求められるメモリ性能とサムスンの戦略

近年のデバイスでは、メモリの転送速度がボトルネックとなるケースが増えている。AI処理の高速化やAR/VRコンテンツの進化、サーバー環境の負荷増加に伴い、より高速かつ低消費電力のメモリが求められている。この状況に対応するため、サムスンは業界最速クラスのLPDDR5-Ultra-Pro DRAMを開発し、次世代デバイスの性能向上を目指している。

例えば、AIのリアルタイム推論では、メモリの帯域幅が広いほど大規模データの処理がスムーズに行える。また、AR/VRでは高解像度の映像をリアルタイムでレンダリングするため、CPUやGPUだけでなくメモリの転送速度も重要な役割を担う。さらに、データセンターのサーバーでは、数十TB規模のデータを瞬時に処理するため、高速なDRAMが不可欠となる。

サムスンは、このような市場の要求に応えるため、第5世代10nm級DRAMプロセスを採用し、転送速度を最大12.7 GT/sにまで引き上げた。これにより、メモリ性能が向上するだけでなく、動作電圧1.05Vという省電力設計が可能となり、長時間の高負荷運用でもエネルギー消費を抑えることができる。

また、サムスンのISSCCでの発表によると、この新型LPDDR5メモリはLPCAMM2モジュールにも応用できるという。LPCAMM2はPCやサーバー向けの新しいメモリモジュール規格であり、これに対応することで、モバイルデバイスのみならず幅広いプラットフォームで超高速メモリの恩恵を受けることが可能となる。

今後の進化と市場への影響はどうなるのか

サムスンのLPDDR5-Ultra-Pro DRAMが市場に投入されることで、モバイルデバイスやPC、サーバーの性能向上が加速することは間違いない。しかし、今後のメモリ業界全体にどのような影響を与えるのかも注目すべきポイントとなる。

まず、競合メーカーであるMicronやSK hynixがどのような対応を取るのかが焦点となる。MicronやSK hynixもLPDDR5Xの高速化を進めており、2023年には9,600 MT/s、2024年には10,700 MT/sの製品を発表している。この流れから考えると、サムスンの12.7 GT/sという数字は、次なる業界標準を引き上げる可能性が高い。

また、サムスンの技術が広く採用されることで、メモリ規格の更新が早まる可能性もある。従来、JEDECの標準策定には一定の時間を要していたが、各メーカーが独自技術で性能を向上させ続けることで、新たなLPDDR5Xの拡張規格が誕生するかもしれない。

一方で、消費電力と発熱の問題も考慮すべき点だ。転送速度が向上するほど、消費電力の増加や発熱リスクが高まる傾向にある。しかし、サムスンは1.05Vという低電圧設計を実現しており、電力効率の最適化にも注力している。この技術が今後のハイエンドデバイスにどのように活用されるかが、実際の市場での成功を左右する要因となるだろう。

今後の展開としては、サムスンの新技術がどの製品に搭載されるのか、また他メーカーがどのような対抗策を打ち出すのかが注目される。特に、スマートフォンやタブレットだけでなく、ゲーミングPCやクラウドサーバー向けの採用が進めば、この新技術の影響力はさらに拡大することになるだろう。

Source:Tom’s Hardware