Arm Holdingsが、2024年後半に初の自社製プロセッサを発表する予定であるとFinancial Timesが報じた。このプロセッサはデータセンター向けに設計されており、すでにMetaを含む複数の企業が採用を決定しているという。この動きにより、Armは従来のライセンシングビジネスに加えて、プロセッサの自社開発と販売へと事業を拡大することになる。

Armの顧客には、AmpereやNvidiaなど独自のArmベースプロセッサを開発している企業も含まれており、今回の決定は彼らと直接競合する可能性がある。さらに、Armはこのプロジェクトを進めるために、ライバル企業や既存の顧客企業からエンジニアを積極的に採用しているとReutersが報じている。この戦略が市場にどのような影響を与えるのか、業界内で注目が集まっている。

Armの新プロセッサ、競争環境をどう変えるのか?

Armの自社製プロセッサの登場は、データセンター向けのプロセッサ市場に新たな競争の波をもたらす可能性がある。現在、この分野ではIntelとAMDが依然として大きなシェアを持ちつつも、NvidiaやAmpereのようなArmアーキテクチャを採用した企業が台頭している。そこにArm自身がプレイヤーとして加わることで、市場の構図が大きく変わるかもしれない。

特に、Neoverse V3やN3を採用する可能性が高いArmのプロセッサは、既存のArmベースのデータセンター向けチップと直接競合することになる。これまでArmはチップ設計のライセンスを提供する立場だったが、自らプロセッサを開発することで、ライセンシー企業と対立するリスクを抱えることになる。この動きは、Nvidiaが独自のArmベースプロセッサ「Grace」を発表した際と同様に、パートナー企業との関係に影響を与える可能性がある。

また、Armが提供するカスタマイズの範囲によっても競争の激しさは変わるだろう。もし、Metaのような顧客が独自の仕様に合わせたカスタマイズが可能な設計となれば、標準的なx86サーバーチップとの差別化が進む可能性がある。一方で、カスタマイズの自由度が低ければ、既存のArmライセンス企業と同じ土俵での競争となり、独自性を打ち出すのが難しくなるかもしれない。

このように、Armの新プロセッサは市場にとって大きな変化をもたらす可能性がある。ただし、実際にどの程度の影響を与えるかは、プロセッサの詳細な仕様やライセンシー企業の対応によって左右されることになるだろう。

Armがチップ開発人材を引き抜く背景とその影響

Armが競合企業や顧客企業から積極的に人材を採用していることは、同社のチップ開発戦略の本気度を示している。この動きは、Armが単なるライセンサーとしてではなく、実際にチップを設計・販売するメーカーへと進化しようとしていることを意味する。

特に、シリコンバレーのチップ設計者に対するリクルーティング活動が強化されている点は注目に値する。Armは従来、プロセッサ設計の知的財産(IP)を提供する企業であり、エコシステム全体を支える役割を担ってきた。しかし、独自のプロセッサを開発・販売するためには、単に設計技術を持つだけでなく、市場で競争できる製品を生み出すためのエンジニアリングチームの強化が不可欠となる。

そのため、Armは競合企業や既存のライセンシー企業から経験豊富な技術者を確保し、独自のチップ開発力を強化しようとしている。ただし、この動きは市場全体に影響を及ぼす可能性がある。例えば、Armの主要顧客であるAmpereやHuaweiなどの企業は、自社のエンジニアを失うことで開発スケジュールに影響を受けるかもしれない。また、これまでArmのアーキテクチャを採用してきた企業の中には、Armの方向性に疑問を抱き、ライセンス契約の見直しを検討するところも出てくる可能性がある。

このように、Armの積極的な人材採用は、同社のチップ開発力を強化するための重要な施策であると同時に、業界全体の人材流動にも影響を与える要因となるかもしれない。今後、Armがどのような体制でチップ開発を進めていくのか、そして市場がどのように反応するのかが注目される。

ライセンスモデルと自社製品展開の両立は可能なのか?

Armはこれまで、プロセッサの設計技術をライセンス提供することで成長してきた。しかし、自社製プロセッサの開発に踏み切ることで、ライセンシー企業との関係に変化が生じる可能性がある。これまで、企業はArmの設計をベースに独自のプロセッサを開発することで競争力を高めてきたが、Arm自身がプロセッサを製造・販売するとなると、その立場は微妙なものとなる。

このような状況は過去にも見られた。例えば、Appleは長年Armアーキテクチャを採用してきたが、最終的には自社で独自のチップ設計(Apple Silicon)を進めることを選択した。これと同様に、Armの主要顧客であるAmazon Web Services(AWS)やGoogleなども、独自のArmベースチップを開発している。この動きが加速すれば、Armのライセンスビジネスに影響を及ぼす可能性がある。

一方で、Armが自社製プロセッサを展開しつつも、ライセンスビジネスを維持することは不可能ではない。例えば、Armのプロセッサが市場の基準となる「リファレンスモデル」として機能するのであれば、ライセンシー企業はそれをベースにカスタマイズし、独自の競争力を持たせることができる。ただし、この戦略が成功するかどうかは、Armがライセンシー企業とどのような関係を築くかにかかっている。

今後、Armがどのようなビジネスモデルを選択するのかによって、データセンター向けプロセッサ市場の勢力図が大きく変わる可能性がある。ライセンスビジネスと自社製品販売の両立が可能なのか、それとも市場の反発を招くのか、今後の展開が注目される。

Source:Tom’s Hardware