サムスンは2025年の成長戦略として、AIとスマートホーム技術に本格的な投資を行う方針を打ち出した。2024年第4四半期の決算では半導体部門の好調が目立つ一方で、モバイルやテレビ事業が苦戦。これを受け、AIを活用したホームデバイスの開発と、スマートホームプラットフォーム「SmartThings」の強化を進めることで市場での競争力を高める考えだ。

新たな戦略の中心となるのは、AIを搭載した家電やデバイスの進化だ。特に、ユーザーの行動を学習し、最適な動作を提供する「Home AI」構想を推進。冷蔵庫や洗濯機、掃除機といった製品にAI技術を組み込み、より直感的でパーソナライズされた体験を実現する。また、サムスンKnoxを活用し、スマートデバイスのセキュリティ強化にも注力する。

市場調査によると、消費者が所有する接続デバイスの数は年々増加しており、スマートデバイスの需要は拡大を続けている。特にミレニアル世代では所有率が高く、スマート家電の普及が加速している。この流れを受け、サムスンはAI技術の進化とスマートホームの拡充によって、業績の回復と新たな収益の創出を目指す。

CES 2025で発表された戦略の実現に向け、どのような製品やサービスが登場するのか。サムスンの次の一手が注目される。

AIチップ市場の競争激化とサムスンの戦略転換

サムスンは2024年に半導体事業で760億4000万ドルという過去最高の売上を達成したが、AIチップ市場では熾烈な競争に直面している。NVIDIAやAMDといった競合企業が市場をリードし、高性能なAIプロセッサの開発で先行する中、サムスンもAI向け半導体の強化に乗り出している。特に、AI処理に最適化された高帯域幅メモリチップの開発を進め、スマートホーム技術の中核となるデバイスに組み込むことで、独自の強みを生かそうとしている。

この動きの背景には、AIの進化がホームデバイスの性能向上を牽引するという市場の変化がある。従来のスマート家電は、センサー技術を活用した自動化が主流だったが、AIの導入により、デバイス自身がユーザーの行動を学習し、状況に応じた最適な動作を選択できるようになる。例えば、冷蔵庫が消費期限を予測して通知したり、エアコンがユーザーの生活リズムに合わせて温度を調整したりする機能が実装される予定だ。

こうしたAI技術の発展により、スマートホーム市場はさらなる拡大が予想される。サムスンは、高性能なAIチップとメモリを組み合わせることで、デバイスの処理速度を向上させ、より快適なユーザー体験を提供することを目指している。AI市場での競争は激しさを増す一方だが、サムスンが独自の技術でどこまで差別化を図れるかが今後の鍵となるだろう。

「Home AI」の進化がもたらすスマートホームの未来

サムスンがCES 2025で発表した「Home AI」構想は、スマートデバイスのインタラクティブ性を向上させ、家電同士の連携をよりスムーズにすることを目的としている。これにより、従来のスマートホームが抱えていたデバイス間の互換性や操作性の課題が大きく改善される可能性がある。

例えば、これまでスマートホームデバイスを使用する際には、異なるメーカーの製品間での連携が難しく、統一された操作環境が確立されていなかった。しかし、「Home AI」が「SmartThings」プラットフォームと統合されることで、異なるデバイス同士がシームレスに連携し、ユーザーのライフスタイルに最適化される。エアコンや照明が使用者の行動を学習し、時間帯や天候に応じて自動で調整するなど、生活全体の利便性が向上することが期待される。

さらに、AIを活用したエネルギーマネジメントも大きな進歩を遂げる見込みだ。スマート家電が電力消費を最適化し、エネルギーコストを抑えるだけでなく、環境負荷の軽減にも寄与する。これにより、スマートホーム技術は単なる利便性の向上にとどまらず、持続可能な社会の実現にも貢献することになる。

サムスンは、こうした技術の進化を背景に、スマートホーム市場のさらなる成長を見据えている。消費者がスマート家電を導入する際の障壁が低くなれば、市場全体の拡大が加速する可能性もある。「Home AI」がどこまで実用化されるか、その展開に注目が集まる。

スマートデバイスのセキュリティとサムスンKnoxの役割

スマートホーム技術の進化に伴い、セキュリティの重要性も増している。特に、スマートデバイスの普及が進む中で、ハッキングやデータ漏洩のリスクが高まっており、これに対する対策が急務となっている。サムスンは、この課題に対応するため、同社のセキュリティ技術「Knox」をスマートホーム領域に積極的に活用する方針を示している。

「Knox」は、これまでスマートフォンやタブレット向けに開発されたセキュリティシステムであり、企業や政府機関でも採用されるほどの高い信頼性を持つ。この技術をスマート家電に応用することで、ユーザーのプライバシーを保護し、不正アクセスを防ぐ仕組みを強化する狙いだ。例えば、スマートロックや監視カメラと連携し、不審なアクセスが検知された場合に自動で警告を発する機能などが考えられる。

また、AIと組み合わせることで、セキュリティシステムがより高度な判断を下せるようになる可能性もある。例えば、家族の行動パターンを学習し、通常と異なる動きがあった場合に警告を発する、あるいは音声認識による本人確認機能を強化するなど、より安全なスマートホーム環境が実現するだろう。

サムスンがこうしたセキュリティ技術を積極的に推進する背景には、スマートデバイスの所有率が年々増加している現状がある。PYMNTS Intelligenceの調査によると、平均的な消費者は6台の接続デバイスを所有しており、ミレニアル世代では7台に達している。このように、日常生活の中でスマートデバイスの使用が当たり前になりつつある今、安全性の確保は欠かせない要素となっている。

今後、スマートホームがより普及していく中で、サムスンKnoxがどのように活用され、セキュリティの強化につながるのか。ユーザーにとって安心して利用できる環境が整うことが期待される。

Source:PYMNTS