ニューヨーク州で新たに施行される低価格ブロードバンド法が、AT&Tの5Gホームインターネットサービスに大きな影響を与えている。この法律は、低所得者向けに手頃な価格でインターネット接続を提供することを義務付けるもので、通信事業者は25Mbpsの回線を月額15ドル、200Mbpsを月額20ドルで提供する必要がある。
この規制を受け、AT&Tは同州での5G固定無線ブロードバンドサービス「AT&T Internet Air」の提供を完全に中止すると発表。1月15日をもってサービスを終了することを決定し、既存ユーザーには45日間の移行期間を設ける。この期間中、利用者には料金が請求されず、代替のインターネットオプションを見つける時間が確保される。
一方で、AT&Tのワイヤレス通信サービスは継続されるため、スマートフォン向けのモバイルネットワークには影響がない。AT&Tは、ニューヨーク州におけるインターネットインフラの投資が新たな規制のもとでは経済的に難しいと説明しており、競争力のある市場環境を求める姿勢を示している。
このブロードバンド法は、昨年終了した連邦の低価格接続プログラム(ACP)に代わる施策として制定されたもの。法的な異議申し立てが続いていたが、最高裁が審理しない判断を下したことで、今年正式に施行が決定した。
AT&Tの決定がもたらす影響とは――5Gホームインターネット利用者への影響
AT&Tの「AT&T Internet Air」終了によって、ニューヨーク州の多くの利用者は新たな選択肢を探さざるを得なくなる。このサービスは、光回線が敷設されていない地域や、従来のブロードバンド契約を避けたい人々にとって重要なインターネット接続手段だった。特に、アパートや借家に住む人々にとって、固定回線を敷設せずに利用できる無線インターネットは手軽な選択肢であり、その代替手段を見つけることが今後の課題となる。
また、このサービスの停止は地方や郊外の一部の地域に影響を与える可能性がある。AT&Tはニューヨーク州で光ファイバーやDSLといった固定回線サービスを提供しておらず、代替手段としての5Gホームインターネットが重要な役割を果たしていた。そのため、既存ユーザーが他社の固定回線に移行する場合、契約条件やコストの面で課題が生じる可能性も考えられる。
一方で、5G通信の発展により、モバイルデータプランを活用するユーザーが増えることも予想される。特に、大容量のデータ通信が可能な無制限プランが他社から提供されている場合、それらを利用することで一定の代替手段となる可能性がある。しかし、固定回線と比較すると速度の安定性やデータ制限の有無といった点で課題が残る。
ニューヨーク州の新ブロードバンド法と通信業界の反応
AT&Tが撤退を決めた背景には、ニューヨーク州の新ブロードバンド法が大きく影響している。この法律は、低所得世帯向けに手頃な価格でのインターネット接続を義務付けるものであり、月額15ドルで25Mbps、月額20ドルで200Mbpsのプラン提供が求められている。これは、従来の市場価格と比べると低価格な設定であり、一部の通信事業者にとっては採算性が問題視される内容だ。
実際に、AT&Tは「この法律のもとでは州内でのブロードバンド投資が経済的に不可能」と声明を出しており、料金設定の規制が企業のサービス提供に影響を与えていることを強調している。さらに、この法律の施行をめぐっては長期間にわたる法的な争いが続いていたが、最終的に米国最高裁判所が異議申し立てを審理しない決定を下したことで、正式に施行されることになった。
こうした流れの中で、他の通信事業者が同様の判断を下すかどうかが注目される。特に、同様の固定無線インターネットサービスを展開する企業にとっては、この法規制の影響をどのように受け止め、どのように対応するのかが今後の焦点となる。企業によっては、ニューヨーク州限定の特別プランを提供する可能性もあるが、それが実現するかどうかは今後の市場動向によるところが大きい。
AT&Tの決断が示す今後のインターネット市場の課題
AT&Tの決定は、ニューヨーク州にとどまらず、今後の米国のインターネット市場全体に影響を与える可能性がある。特に、固定回線を補完する手段として5Gホームインターネットが注目される中、規制による制約が増えることで、通信各社の戦略が変化する可能性が高い。
また、価格規制が新たな技術の導入やサービス拡大にどのような影響を与えるかも重要なポイントだ。AT&Tは、ブロードバンドインフラの投資を継続するためには「資本投資や技術革新、競争力のある市場環境が必要」と述べており、過度な料金規制が企業の新規投資を抑制する可能性があることを示唆している。
さらに、連邦レベルでの補助プログラムである低価格接続プログラム(ACP)の終了も、今回の問題に関連している。このプログラムは、低所得世帯がインターネットを利用できるよう補助を行っていたが、その終了によって州レベルでの対策が求められる状況となった。ニューヨーク州の新たな法律はその対策の一環といえるが、AT&Tの撤退が示すように、すべての通信事業者がこの規制のもとでサービスを継続できるわけではないことが浮き彫りとなった。
この動きが他の州や通信業界全体に波及するかどうかは、今後の展開次第だ。しかし、インターネット環境の整備が進む一方で、企業と政府のバランスをどう取るかが今後の大きな課題となることは間違いない。
Source:CNET