サムスンの半導体部門が抱える課題が次々と明らかになる中、ARMによる最大300%の価格引き上げという新たな試練が浮上している。この動きにより、Exynosチップセットの競争力がさらに低下する可能性が指摘されている。特に、次期フラッグシップモデルに搭載されるExynos 2600がその影響を受ける見通しだ。

ARMのコアに依存する現行のExynos設計は、高騰するライセンス料の直撃を受ける一方、他のメーカーがカスタム設計でコスト削減を図る中で苦境に立たされている。加えて、サムスン内での部門間の対立も状況を複雑化させており、モバイル部門がSnapdragonやMediaTekへの移行を加速させる兆候が見える。

こうした状況下で、Exynosの存続が問われるだけでなく、サムスンの半導体事業全体の方向性が大きく揺らぎ始めている。未来への解決策としてカスタムコアの開発再開が囁かれるが、その実現には膨大な時間と資金が必要となる。ARMの価格政策と市場競争の板挟みの中で、サムスンがどのような選択をするのかが注目される。

ARMの価格引き上げがもたらす影響とサムスンの対応策

ARMが進める最大300%の価格引き上げは、サムスンにとって極めて深刻な問題である。Exynosチップセットは、ARMのCortexシリーズを核とした設計を採用しており、ライセンス料の増加はコスト構造に直接的な圧力を加える。特に、フラッグシップモデルに搭載されるExynos 2600の競争力が大きく揺らぐ可能性がある。

ARMの戦略変更の背景には、業界全体の収益性向上を狙った意図があるとみられるが、サムスンにとってこれが競合他社との差を広げる結果につながる恐れがある。例えば、クアルコムはOryonコアのようなカスタム設計を進めることで、ARMへの依存度を下げコストを最適化している。一方でサムスンは標準コアの採用に留まり、価格競争で不利な立場に立たされている。

この状況に対して、サムスンが新たな方向性を模索する可能性は否定できない。自社開発のCPUコアを再構築する道筋も一案だが、過去の取り組みで結果を出せなかった事例や、開発に必要な膨大な資金と時間を考慮すると、短期的にはSnapdragonやMediaTekチップセットへの依存がさらに強まる可能性が高い。

部門間対立が生む内部的課題とExynosの行方

サムスン内部では、モバイル部門(MX)とデバイスソリューション部門(DS)の間で、資源配分を巡る対立が深まっている。例えば、Galaxy S25シリーズでは、メモリ供給元としてDSではなくMicronが選ばれた背景には、DS製品が抱える性能やコスト上の課題があるとされている。このような内部の不協和音は、Exynosの立場をさらに弱める要因となっている。

MXがクアルコムやMediaTekの採用に傾く理由は明確だ。これらのチップセットは性能とコストのバランスに優れ、市場でも高い評価を得ている。対してExynosは、ARMコアへの依存や過去の設計上の問題が影響し、OEMからの需要が低迷している。

事実、MediaTekのDimensityシリーズは中価格帯市場でのシェア拡大を続けており、サムスン自身がGalaxy Tabシリーズに採用する動きも見られる。このような状況下で、DSが独自の競争力を維持するためには、製品開発の方向性を抜本的に見直す必要があるだろう。ただし、それが実現するまでには、部門間の連携を強化し、社内で統一した戦略を構築することが求められる。

モバイル市場の変化とExynosの未来

モバイルプロセッサ市場は、クアルコムやMediaTekといった主要プレイヤーによる革新が進みつつある。特に、ARMに依存しない設計を採用するクアルコムのような企業が増えることで、サムスンの現状維持戦略はますます困難になる可能性がある。

一方で、サムスンにとってExynosを完全に手放す選択肢は依然として難しい。サプライチェーンの多様化は長期的な競争力を維持する上で不可欠であり、自社チップセットの開発能力を保持することは、技術的独立性を確保する意味でも重要である。ただし、それが企業全体の負担となる場合、最終的には縮小や撤退といった判断を迫られる可能性も考慮すべきだろう。

最終的にサムスンがどのような決断を下すのかは、ARMの価格戦略や業界全体の動向次第である。ただし、この状況は単なる企業内の問題ではなく、モバイル市場全体の構造変化を象徴していると言えるだろう。