中国企業が開発した複合現実(MR)ヘッドセット「Play For Dream MR」が注目を集めている。特に、2025年のCESで披露されたこの製品は、元Metaエンジニアのアマンダ・ワトソン氏から高い評価を受けた。
彼女は「Android版Apple Vision Pro」と評し、性能や光学系、ユーザーインターフェースの完成度を絶賛。Snapdragon XR2+ Gen 2チップセットやデュアルmicro-OLEDディスプレイなど、最先端のXR技術を搭載し、PCストリーミングやコントローラーの操作性にも優れる。
同製品は昨年アジア市場で発売され、欧米市場への進出を目指している。価格は2000ドル未満と予想され、革新的な技術を手頃な価格で提供する点も注目される。
中国製MRヘッドセットの仕様と設計の特徴
「Play For Dream MR」は、最新のSnapdragon XR2+ Gen 2チップセットを搭載し、OSにはAndroid 15を採用している。この組み合わせにより、従来型ヘッドセットよりも処理速度やグラフィック性能が大幅に向上している。また、3,840×3,552の解像度を持つデュアルmicro-OLEDディスプレイは、視界全体にわたる鮮明な映像体験を実現する。このディスプレイはリフレッシュレート90Hzを備えており、スムーズな映像描写を提供する点で、臨場感を重視するXR製品市場において優位性を発揮している。
さらに、アイトラッキング機能と自動瞳孔間距離(IPD)調整が搭載されており、ユーザーごとの視野補正を行うことで視認性が向上する仕組みだ。この技術は、長時間の使用時に目の疲労を軽減する効果も期待できる。リアマウント式のバッテリー設計は、重量バランスを後部に分散させることで、長時間使用時の快適性を確保している。こうした設計思想はMetaの「Quest Pro」を彷彿とさせるが、コントローラーは独自の「Touch」スタイルを採用している点が興味深い。
これらの仕様を見ると、同社が「Vision Pro」の設計に触発されつつも、技術的差別化を図ろうとした痕跡が伺える。これにより、「Play For Dream MR」は次世代MR市場の競争において、確かな存在感を示すプロダクトとして注目されている。
元Metaエンジニアの高評価が示す信頼性
元Metaエンジニアであるアマンダ・ワトソン氏が「Play For Dream MR」を高く評価した背景には、同氏の専門的な経験がある。彼女はMeta在籍時、PC接続型VR機能「Link」や無線ストリーミング機能「Air Link」の開発に携わり、特に後者は単独で13か月にわたり開発を行った実績を持つ。そのため、ヘッドセットの機能やユーザー体験を評価する際の視点は極めて高度であり、その発言には信頼性がある。
彼女は本製品について「アイトラッキングや光学性能の精度が際立っており、パンケーキレンズの歪み補正も優れていた」と述べている。特に歪み補正は、MR体験の質を大きく左右する要素であり、ワトソン氏が高く評価する点は、開発企業にとっても大きな強みである。
ただし、PCVRストリーミング機能においては「フレームレートや遅延がまだ調整中の印象を受けた」と指摘していることから、技術的な課題も残されているといえる。とはいえ、ストリーミング機能は比較的新しい技術であり、今後のアップデートによって改良が進む可能性が高い。こうしたフィードバックが製品の完成度向上に反映されることで、市場での評価がさらに高まることが期待される。
グローバル市場進出への展望と課題
「Play For Dream MR」を手がける企業は、2020年に設立された中国企業「YVR」である。同社はすでに「YVR 1」および「YVR 2」といったスタンドアロン型VRヘッドセットをリリースし、中国市場で一定の成功を収めている。しかし、今回のMRヘッドセットの欧米市場進出にあたっては、強力な競合が存在する中で製品価値を証明する必要がある。
特に、「Vision Pro」や「Quest Pro」などの競合製品と比較した場合、価格設定が重要な要素となる。同社は「2000ドル未満」を目標としているが、この価格帯は他のハイエンドデバイスと比べて競争力がある。Kickstarterキャンペーンで約29万2000米ドルを調達し、注目を集めたことは欧米進出への追い風となり得るが、出荷体制やサポート体制を含めた総合的な戦略が求められる。
また、ハンドトラッキング機能が搭載されているにもかかわらず、デモが行われなかった点は改善の余地があるといえる。特定の機能を効果的に訴求することで、消費者により強い印象を与えることが可能だ。こうした戦略が奏功すれば、MR市場の新たなプレーヤーとして「Play For Dream MR」は確固たる地位を築けるだろう。