マイクロソフトは2025年10月14日以降、一般ユーザー向けのWindows 10セキュリティ更新プログラムを有料化する方針を発表した。これにより、現行システムを維持したいユーザーは年額30ドルの「Extended Security Update (ESU)」プログラムに加入する必要がある。

このプログラムは重大なセキュリティ更新の提供に限定され、新機能の追加や技術サポートは対象外である。Windows 11への移行が推奨されるものの、互換性問題により多くのユーザーがWindows 10の継続使用を余儀なくされると見られており、ESUの需要が高まる可能性がある。

マイクロソフトは同時にMicrosoft Defender Antivirusのセキュリティ更新を少なくとも2028年まで継続する方針も示している。

Windows 11への移行促進と現行システム維持のジレンマ

Windows 10からWindows 11への移行が推奨されているが、多くのユーザーが互換性の問題から移行に難航している。Windows 11の動作条件として、1GHz以上の64ビットプロセッサ、4GBのRAM、64GBのストレージ、DirectX 12対応グラフィックカード、そしてTPM 2.0が求められる。

特に、TPM 2.0チップの存在は旧型PCでは実現が難しく、これが多くのユーザーにとって大きなハードルとなっている。マイクロソフトは、セキュリティやパフォーマンスの向上を理由に最新OSへの移行を推奨しているが、現行のPCがこれらの要件を満たさない場合、Windows 10に留まらざるを得ないユーザーも少なくない。

この状況に対し、マイクロソフトはExtended Security Update (ESU)プログラムの一般ユーザーへの提供を発表した。このプログラムは、今後もWindows 10のセキュリティ更新を受け続けるための選択肢として機能するが、1年間で30ドルのコストがかかる。

この料金負担は決して小さくなく、移行を促進する戦略とも取れるが、逆に新しいPCへの買い替えがすぐに難しいユーザーには有効な手段ともいえる。今後、セキュリティ対策を目的にこのプログラムの加入を検討するユーザーは少なくないだろう。

セキュリティ更新有料化の背景にあるサイバーリスクとマイクロソフトの戦略

Windows 10のセキュリティ更新有料化の背景には、急速に増加するサイバー脅威への対応があると考えられる。近年、ランサムウェアやフィッシング詐欺といったサイバー攻撃は、一般家庭のみならず企業や政府機関にも広がっており、セキュリティ更新の需要が高まっている。

マイクロソフトは、最新OSに搭載されるセキュリティ機能が強化されていることから、新しいシステムへの移行を進めたい意図があると見られるが、同時に現行システムを使い続ける層に対しても、最低限の防御策を提供する必要性を感じているのだろう。

このため、ビジネスユーザー向けに提供していたESUプログラムを一般ユーザーにも拡大することで、古いOSを使用する層のサイバーリスク軽減を図っているとみられる。

このプログラムでは「重大」および「重要」なセキュリティ更新のみ提供され、新機能の追加やバグ修正が行われない点で割り切った構成となっているが、Microsoft Defender Antivirusのセキュリティインテリジェンス更新も少なくとも2028年まで継続するとしており、一定のセキュリティ維持策は講じられていると言えよう。

一般ユーザー向けESU提供が示すマイクロソフトの今後の方針

今回、一般ユーザー向けにESUを提供するという決定は、今後のWindowsサポート方針に一石を投じるものと考えられる。これまでは新OSへの移行を強く推奨する一方、旧バージョンのサポート終了に関しては厳格であった。しかし、Windows 10のユーザー数は依然として膨大であり、全ユーザーが容易に新OSに移行できるわけではないことをマイクロソフトも認識しているのだろう。

サポート終了後も一定のサイバーリスク対策を提供することで、ユーザーの安全を確保しながら、徐々に新OSへの移行を促す狙いがあると考えられる。

このようなサポート拡大策は、サイバーセキュリティ業界の新たなトレンドにも沿った動きである。セキュリティアップデートの有料化は、企業としての収益向上も狙える一方、サービスの安定供給や顧客ニーズへの対応が求められるため、今後もユーザーの反応を見極めながら柔軟に対応することが期待される。