AMDのクアッドコアCPU、EPYC 4124Pがオーバークロッカーによって5.65GHzまで引き上げられた。これは、通常はロックされているとされるプロセッサが水冷カスタムとdelidにより限界まで性能を引き出された結果だ。シングルコア性能では、AMDの最新フラッグシップであるRyzen 9 7950Xと肩を並べる結果となり、驚異的なパフォーマンスが話題を呼んでいる。

EPYC 4124P、異例のオーバークロック性能を発揮

AMDのクアッドコアCPU「EPYC 4124P」が、著名なオーバークロッカー「der8auer」によって、5.65GHzまでオーバークロックされ話題となっている。このCPUは通常、ロックされており一般的なPC用途でのオーバークロックは不可能とされていたが、カスタム水冷装置とデリッド(CPUの蓋を外す技術)を用いることで、この限界を突破した。特に「EPYC」ブランドは、一般には多コアサーバーチップを連想させるが、この4124Pはクアッドコアという小型構成でありながらも、潜在的な性能が評価されている。

EPYC 4124Pは、AMDのAM5ソケットに対応しており、デスクトップ向けのRyzen 7000および9000シリーズとも互換性がある。これが特に興味深い点であり、サーバー用のCPUが一般的なデスクトップマザーボード上でこのような高いパフォーマンスを発揮するのは異例のケースである。価格帯としては、約160ユーロ(約174ドル)と、同じくクアッドコアのRyzen 5 7500Fよりやや高価だが、オーバークロックによる性能向上を考慮すればその価値が十分にある。

これらの結果は、単なる趣味的な実験にとどまらず、今後のオーバークロック文化に新たな風を吹き込む可能性を秘めている。現行のクアッドコアCPUでここまでの性能を引き出せる点は、技術的にも非常に興味深い。

5.65GHzに達した水冷カスタムとdelidの秘訣

der8auerは、まずEPYC 4124Pのデリッドを行い、CPUの蓋を外した。この工程は非常にリスクが高く、間違えばプロセッサを破損する恐れがあるが、成功すれば冷却効率が飛躍的に向上する。その後、カスタム水冷システム「AMD Mycro Direct-Die Pro Water Cooler」を取り付け、直接ダイに冷却を施すことで、高負荷時でも安定した動作を実現した。この特殊な冷却手法は、通常のエアクーラーや一体型水冷システムでは達成不可能な領域である。

また、使用されたマザーボードはASUSの「X670E ROG Crosshair Hero」で、このハイエンドなボードはCPUやメモリのオーバークロック機能を完全にサポートしている。興味深い点は、このマザーボードが公式にはEPYC 4124Pをサポートしていないにもかかわらず、オーバークロッカーが巧妙に設定を調整し、5.65GHzまで安定して動作させたことである。

結果的に、このシステムはDDR5-6000メモリと360mmのAIOクーラーを組み合わせ、消費電力は85Wから90W前後で動作した。この一連の手法により、EPYC 4124Pは20度も温度が下がり、パフォーマンスの向上が顕著に現れた。最終的に、オーバークロック後の全コアが5.65GHzに到達し、消費電力も100Wを超えるに至った。

Ryzen 9 7950Xとの比較とベンチマーク結果

EPYC 4124Pは、そのオーバークロック後のシングルコア性能において、Ryzen 9 7950Xと肩を並べることができた。特に「Cinebench R23」のシングルスレッド部門では、EPYC 4124Pが2023ポイントを獲得し、Zen 4世代のRyzen 9 7950Xと同等の結果を出したことが注目されている。この結果は、わずか4コアしか持たないサーバー向けのプロセッサが、デスクトップ向けの16コアフラッグシップと競り合えることを証明している。

ただし、マルチスレッド性能に関しては、Ryzen 5 7600XやRyzen 9 7950Xに劣る。Cinebench R23のマルチコアテストでは、EPYC 4124PはRyzen 5 7600Xに対して明確に遅れを取っており、全体的なパフォーマンス差は埋め難い。しかし、オーバークロックによってパフォーマンスは11%向上し、特定の用途では競争力を発揮している。

また、ゲームにおいても性能の差が顕著である。特に「Valorant」ではRyzen 5 7600Xが約60%も高速であることが確認されており、EPYC 4124Pが最新のゲーム環境で主流となることは難しいだろう。それでも、サーバー用途から生まれたプロセッサがここまでの結果を出せる点は驚異的である。

現代におけるクアッドコアCPUの役割とは?

EPYC 4124PのようなクアッドコアCPUは、現代においてどのような役割を果たしているのだろうか。かつてはクアッドコアが高性能の代名詞であったが、現在では多コアCPUが主流となり、クアッドコアの存在感は薄れつつある。それにもかかわらず、このEPYC 4124Pは、特にオーバークロック界隈で再び注目を浴びている。

現代のコンピュータ市場では、複数のコアを使いこなすアプリケーションやゲームが主流となっており、マルチコア性能が求められている。そのため、クアッドコアCPUは性能的には見劣りすることが多い。しかし、EPYC 4124PのようなCPUは、価格や用途によっては依然として有用であり、特に限られた予算で高いシングルコア性能を求めるユーザーに適している。

また、オーバークロッカーにとっては、EPYC 4124Pのようなプロセッサは、極限まで性能を引き出す挑戦の対象となる。今回のオーバークロックテストでは、デリッドや水冷といった手法を駆使して限界を超える性能を発揮した。このような挑戦心が、今後のクアッドコアCPUの役割を新たに定義する可能性があるといえるだろう。