AMDの最新APU「Ryzen AI Max+ 395」が発表され、モバイル向けとしては驚異的な性能を持つことが明らかになった。16コアのZen 5 CPU、40基のCUを備えたRDNA 3+ GPU「Radeon 8060S」、そして50TOPSのXDNA 2 NPUを搭載し、処理能力、グラフィックス、AI機能のすべてが大幅に向上している。
特に、Geekbench 6.3 Multi-Coreで約20,700ポイントを記録し、デスクトップ向けハイエンドCPUと同等のマルチスレッド性能を発揮する点は注目すべきポイントだ。また、統合型GPUのRadeon 8060SはGeForce RTX 4050に匹敵すると予想され、モバイル環境でも高品質なゲーム体験が可能になると期待される。
一方で、TDPは最大120Wに達する可能性があり、冷却性能や電源管理が課題となる可能性がある。最新のLPDDR5x-8000メモリ、USB 4、PCIe 4対応など、最先端の技術が詰め込まれたこのAPUは、2025年のノートPC市場に大きな変革をもたらすことになりそうだ。
Zen 5アーキテクチャがもたらす処理性能の進化
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Ryzen AI Max+ 395が搭載するZen 5アーキテクチャは、前世代のZen 4と比較して約16%のIPC(クロックあたりの命令実行数)向上を実現している。この進化の要因として、分岐予測の改善や実行ユニットの最適化、メモリレイテンシの低減などが挙げられる。特に、複雑な命令処理の効率が向上し、高負荷なマルチスレッド処理やAI演算において大きなアドバンテージを発揮する。
また、AVX512命令セットに完全対応しているかどうかは明らかになっていないが、デスクトップ向けZen 5と同様の拡張性を備えていれば、データ処理やコンテンツ制作の分野での活用も期待できる。加えて、LPDDR5x-8000メモリへの対応により、メモリ帯域幅の向上が見込まれ、システム全体のスループットを向上させる。
これにより、ゲームや動画編集、3Dレンダリングなどの用途でも、スムーズな動作が実現される可能性が高い。ただし、この高性能を安定して発揮するためには、適切な冷却設計が求められる。TDP(熱設計電力)は最大120Wに達するとされており、一般的なノートPCではこの熱を適切に処理できるかが鍵となる。
そのため、Ryzen AI Max+ 395を搭載するノートPCがどのような冷却機構を採用するのかが、実際のパフォーマンスに大きく影響を与えると考えられる。
Radeon 8060Sがもたらす統合型GPUの新時代
Ryzen AI Max+ 395に統合されるRadeon 8060Sは、RDNA 3+アーキテクチャを採用し、40基のコンピュートユニット(CU)、合計2560基のユニファイドシェーダーを搭載している。この構成により、従来のモバイル向け統合型GPU(iGPU)を大きく超える性能を持ち、デスクトップ向けのGeForce RTX 4050に匹敵するとされている。
このGPUの強みは、単なるグラフィック性能の向上にとどまらず、動画エンコード・デコード能力の充実にもある。AVC、HEVC、VP9、AV1といった主要な映像コーデックをハードウェアレベルで処理できるため、動画編集やストリーミング配信時の負荷が軽減される。
ただし、最新のVVC(Versatile Video Coding)には対応しておらず、これに対応するIntelのLunar Lakeシリーズと比較した場合、一部の最新映像処理技術で差が出る可能性もある。さらに、最大4台の4320p 60Hzディスプレイに対応しており、マルチモニター環境でも高解像度出力が可能である。
これにより、ゲーム用途だけでなく、クリエイティブワークやマルチタスク環境での快適な作業が期待できる。しかし、統合型GPUでありながら高性能を発揮するため、ノートPCの冷却性能が十分でなければ、本来のパフォーマンスを活かしきれないという点には注意が必要だ。
AI処理を加速するXDNA 2 NPUの可能性
Ryzen AI Max+ 395には、AMDの最新NPU(ニューラルプロセッシングユニット)であるXDNA 2が統合されており、最大50 INT8 TOPS(1秒あたりの兆回演算)というAI処理性能を持つ。これは、モバイルプロセッサとしては非常に高い数値であり、AIを活用するアプリケーションの処理速度を大幅に向上させると期待される。
特に、AIを活用した画像認識やノイズリダクション、リアルタイム映像処理といった分野では、従来のCPUやGPUよりも効率的に処理を行える可能性が高い。これにより、AIアシスタント機能の高速化や、動画編集ソフトでの自動補正処理の向上など、実用的なメリットが多くなるだろう。
また、NPUを活用することで、AIによるリアルタイム翻訳や音声認識の精度向上も期待される。特に、クラウド処理に依存せずローカルでAI演算を実行できるため、プライバシーの確保やオフライン環境での利便性が向上する。ただし、現在のAIアプリケーションがどこまでXDNA 2に最適化されるかは未知数であり、ソフトウェアの対応状況によっては実際の恩恵が限定的になる可能性もある。
このように、Ryzen AI Max+ 395はCPU、GPU、NPUの各分野で大幅な進化を遂げているが、それぞれの性能を最大限活かすためには、ハードウェアの設計やソフトウェアの最適化が重要な要素となる。今後のノートPC市場でどのように活用されるかが注目されるポイントとなるだろう。
Source:NotebookCheck