Intelは、ポータブルゲーミングデバイス市場への注力を最優先事項と位置づけ、開発体制を強化している。同社の副社長であるロバート・ハロック氏は、ゲーム開発者向けに最新チップを搭載した試作機の提供を計画しており、特に次世代の「Panther Lake」チップの開発に向けた取り組みを進めていると述べた。これにより、IntelはAMDが主導する市場に新たな風を吹き込む可能性がある。

ポータブルPCゲーミング市場は、Valveの「Steam Deck」が登場した2022年以降、急速に拡大している。特に、ASUSの「ROG Ally X」などの成功例がある一方で、Lenovoの「Legion Go S」のように苦戦する製品も存在する。これらのデバイスの多くはAMDのプロセッサを搭載しており、グラフィック性能とバッテリー寿命のバランスが評価されている。

一方、Intelのモバイルプロセッサを採用したMSIの「Claw A1M」は市場での評価が低迷している。Intelは、AMDの統合グラフィックスチップに対抗するため、ゲーム開発者に試作機を提供し、自社の最新チップの性能を体験してもらう戦略を採用している。ハロック氏は、「多くのゲーム開発者は手元にあるデバイスを基準に開発を行う傾向がある。

我々は彼らに試作機を提供し、Panther Lakeの開発に繋げる予定だ」と述べている。また、IntelはCES 2025で、Quantaと共同開発したモジュラーPCのコンセプトを発表した。このデバイスは、取り外し可能な「Detachable AI Core」と呼ばれるモジュールを中心に設計されており、ハンドヘルドゲーミングPCやラップトップなど、さまざまな形態に変化することが可能だ。

このモジュールには、Intelの「Lunar Lake」チップが搭載されており、ユーザーは用途に応じてデバイスをカスタマイズできる。さらに、Intelはディスクリートグラフィックスカード事業の継続を宣言しており、特に予算重視のゲーマー向けに「Arc B580」グラフィックスカードを発売した。このカードは市場で好評を博しており、今後も「B570」などの新製品の投入が予定されている。

Intelのこれらの取り組みは、ポータブルゲーミング市場におけるAMDの独占状態に風穴を開ける可能性がある。特に、次世代チップ「Panther Lake」の登場により、Intelが市場シェアを拡大することが期待される。

Intelのポータブルゲーミング向け新技術「Panther Lake」とは?

Intelが開発を進める「Panther Lake」は、ポータブルゲーミングデバイス向けに最適化された次世代チップとして注目を集めている。これまでの「Meteor Lake」や「Lunar Lake」と比較して、消費電力の最適化やグラフィック性能の向上に重点を置いているのが特徴だ。特に、統合型グラフィックス「Arc」との連携により、バッテリー駆動時のパフォーマンス向上が期待されている。

また、Intelは開発者向けに試作機を提供し、ゲームソフトウェアの最適化を進める計画を立てている。ゲームエンジンやドライバのチューニングを早期に行うことで、AMDの「Ryzen Z1 Extreme」が席巻するポータブルゲーミング市場において競争力を確保しようとしている。特に、TDP(熱設計電力)を抑えつつ、高いフレームレートを実現する技術が鍵となる。

しかし、現時点では「Panther Lake」を搭載した具体的な製品が発表されていない。IntelがOEMメーカーとどのような提携を進めるのか、また、MSIの「Claw」シリーズの後継機種に採用されるのかが今後の焦点となる。

加えて、Intel独自のアップスケーリング技術「XeSS」の改良が進めば、AMDのFSR(FidelityFX Super Resolution)やNVIDIAのDLSSに対抗できる可能性がある。ポータブルゲーミング市場での勢力図が変わるのか、今後の動向に注目が集まる。


Intelが直面するポータブルゲーミング市場の課題とは?

Intelがポータブルゲーミング市場に本格参入するにあたり、最大の課題となるのはAMDとの技術差だ。現在、市場に出回っている主要なハンドヘルドデバイスは、ほぼすべてAMDのRyzenプロセッサを採用している。Steam DeckやROG Ally、Legion Goといった製品が成功を収めた要因の一つは、AMDの統合グラフィックスが持つ電力効率の良さと、適切なパフォーマンスバランスにある。

一方、Intelのモバイル向けチップは、単体ではゲーミング性能においてAMDに劣る部分がある。特に、MSIの「Claw A1M」が市場で評価を得られなかった理由として、バッテリー駆動時のパフォーマンス低下が指摘されている。Intelは「Arc」グラフィックスの改善を進めるとともに、電力管理技術の強化が不可欠だ。

加えて、ゲーム開発者がIntelの統合グラフィックス向けに最適化するインセンティブが不足している点も問題視される。AMDはすでに多くの開発者と連携し、最適化を進めているが、Intelはまだその段階に至っていない。そのため、Intelが提供する試作機がどの程度開発者に浸透し、ゲームの最適化が進むかが今後のカギとなるだろう。


AMDの牙城を崩せるのか?Intelの逆襲の可能性

ポータブルゲーミング市場において、AMDは圧倒的なシェアを誇るが、Intelが逆転の可能性を秘めている点も見逃せない。その一つが、Intel独自のAI活用によるパフォーマンス向上技術だ。最近のゲーミング環境では、AIを活用したフレーム補完やアップスケーリング技術が重要視されており、Intelは「XeSS」の改良を進めることで、AMDのFSRとの差別化を狙っている。

また、Intelの「Battlemage」シリーズのディスクリートGPUが、将来的に統合型グラフィックスにも技術が還元される可能性がある。これにより、ポータブルデバイスにおいても、NVIDIAの「DLSS 4」に匹敵するアップスケーリング技術が実装されれば、AMDとの差を縮めることができる。

さらに、IntelはOEMメーカーとの新たな提携を模索しており、ASUSやLenovoといった既存のポータブルゲーミング市場プレイヤーだけでなく、RazerやAlienwareのようなゲーミングブランドとのコラボレーションが実現すれば、市場のバランスが変わる可能性もある。

Intelがハードウェア性能の向上だけでなく、ソフトウェアの最適化とパートナーシップ戦略を強化できれば、AMDの牙城を崩す日も遠くはないかもしれない。

Source:Windows Central