ベンチマークソフトウェア開発元のPassMarkによると、2025年のCPU総合パフォーマンスは、同社の20年の歴史の中で初めて低下傾向を示している。公開されたデータによれば、デスクトップおよびラップトップの性能はこれまで毎年向上してきたが、2025年にはデスクトップがわずかに低下し、ラップトップの性能はより顕著に落ち込んでいる。

この現象の要因として、消費者の購買行動の変化、ハードウェアの進化の停滞、そしてWindows 11の影響など、複数の要素が絡み合っている可能性がある。今後の動向に注目が集まる。

なぜCPUの性能は成長を止めたのか?その背後にある要因

PassMarkのデータが示すCPUの性能低下は、単なる偶然ではない。これにはいくつかの要因が考えられる。その中でも特に大きな影響を及ぼしているのが、半導体製造技術の進化の停滞、消費者の購買動向の変化、そしてソフトウェアの要求仕様の増大である。

まず、半導体技術に目を向けると、プロセスノードの微細化が限界に近づいていることがわかる。かつて、IntelやAMDはムーアの法則に基づき、約2年ごとにトランジスタの密度を倍増させ、性能向上を続けてきた。しかし、最近のプロセスノードは7nmや5nmといった極めて小さい領域に突入し、物理的な制約が生じている。

結果として、動作クロックや消費電力の最適化が求められ、新しいアーキテクチャの開発により多くの時間がかかるようになった。これが、最新のCPUでも過去ほどの劇的な性能向上が見られない理由の一つである。

また、消費者の購買行動も変化している。過去数年間でPCの価格は大幅に上昇し、特にハイエンドCPUの価格は高騰した。これにより、多くのユーザーがコストを抑えるために、より安価なモデルを選ぶ傾向が強まっている。その結果、PassMarkの統計データにおいても、全体的なパフォーマンスの平均値が下がる形となっている可能性がある。

さらに、ソフトウェアの進化も影響を及ぼしている。最新のOSやアプリケーションは、セキュリティ機能の強化やAI処理など、新しい技術を積極的に導入している。その一方で、これらの機能がCPUに対する負担を増大させ、結果的に「以前のCPUよりも新しいCPUの方がベンチマークで低いスコアを出す」といった逆転現象が起こる場合もある。

特に、Windows 11はバックグラウンドプロセスの増加やスケジューリングの変更により、特定のCPUでは最適なパフォーマンスが発揮されないケースが報告されている。こうした複数の要因が絡み合った結果、PassMarkのデータが示すように、2025年のCPUパフォーマンスが年間で低下するという異例の事態が発生したと考えられる。

IntelとAMDの最新CPUに何が起こっているのか?性能低下の裏側

CPUメーカーとして市場を二分するIntelとAMDは、近年さまざまなアプローチで性能向上を試みてきた。しかし、PassMarkのデータが示すように、最新CPUは過去のモデルと比べて思うように性能が伸びていない。特に、Intelのデスクトップおよびラップトップ向けCPUの一部モデルでは、ベンチマークスコアが前年モデルよりも低い数値を記録するケースが目立つ。

この背景には、Intelのアーキテクチャ戦略の転換が関係している。特に注目すべきなのは、従来の「Hyper-Threading」を廃止し、新たに「Performance Core(Pコア)」と「Efficiency Core(Eコア)」を組み合わせる方式に移行したことだ。

これは、シングルスレッド性能を向上させるための試みであるが、同時にマルチスレッド処理が重要な作業ではパフォーマンスの低下を招く結果となった。例えば、エンコードやレンダリングといった負荷の高い作業では、従来のHyper-Threadingを搭載したCPUの方が高速で処理できるケースもある。

一方のAMDは、過去数年間で劇的な成長を遂げたものの、2025年に入ってからは明確な進化が見られない。現在、最も高性能なCPUとされる「Ryzen Threadripper PRO 7995WX」は、実は2年前に発売された製品であり、それを超えるパフォーマンスを持つ新型CPUは登場していない。

これは、AMDがZen 4やZen 5アーキテクチャの改良を進める一方で、劇的な飛躍を遂げるような新技術の導入が遅れているためと考えられる。加えて、Intelの「Arrow Lake」シリーズも期待されていたほどのパフォーマンス向上を実現できていないという声がある。これは、最新の製造プロセスにおける歩留まりの問題や、消費電力の最適化に苦戦していることが影響している可能性がある。

特に、最新のチップは省電力化を優先する傾向にあり、消費電力を抑えた結果として、最大クロックの上昇が抑制されているとも考えられる。こうした要因が重なった結果、2025年のCPU市場では、IntelとAMDの両方で大きな性能向上が見られない状況となっている。

今後のCPU市場はどうなる?ユーザーが注目すべきポイント

2025年のCPU性能低下は、単なる一時的な現象なのか、それとも今後も続く傾向なのか。その答えは、今後数年間の技術革新と市場動向によって決まるだろう。まず、半導体技術の進化がどこまで進むかがカギとなる。現在、IntelとAMDの両社は3nmプロセスの導入を目指しており、次世代のCPUでは再び大幅な性能向上が期待される。

しかし、この微細化には製造コストの増加や歩留まりの問題が伴うため、必ずしもすぐに普及するとは限らない。特に、ハイエンドCPUの価格は今後も高騰する可能性があり、一般ユーザーが手軽に最新CPUを購入することが難しくなるかもしれない。

また、ソフトウェアとハードウェアの最適化も重要なポイントである。Windows 11のパフォーマンス最適化が進めば、新しいCPUの性能が十分に発揮される可能性がある。Microsoftはすでに最新のWindowsアップデートでZen 5アーキテクチャ向けの調整を行っており、今後のソフトウェア最適化が進めば、現在の性能低下傾向が改善されるかもしれない。

さらに、ユーザーの選択もCPU市場の方向性を決定する要因となる。現在のPC市場では、ゲーミングPCやクリエイター向けPCの需要が依然として高い。しかし、価格の上昇によってミドルレンジのモデルが主流となれば、ベンチマークデータの平均値は引き続き低下する可能性がある。

今後のCPU市場がどのように変化するのか、最新の技術革新に注目しながら、自身の用途に最適な選択をすることが求められる。

Source:ExtremeTech