Appleが拡張現実(AR)グラスの開発プロジェクトを正式に中止したことが報じられた。このプロジェクトは「N107」というコードネームで進められていたが、正式に発表されることなく幕を閉じた。Apple Vision Proの販売が伸び悩む中、同社のAR戦略の不透明さが一層際立つことになりそうだ。
AppleのARグラスは、一般的なメガネのような外観で、装着者のみに情報を表示する構想だった。しかし、当初のiPhone接続型の設計ではバッテリー消耗が激しく、次にMacとの連携を試みたものの十分な性能を発揮できず、最終的に開発が断念された。
一方で、MetaはARグラス市場において一定の成功を収めつつある。同社のRay-Banとの共同開発モデルは2024年に100万台以上を販売し、価格の手頃さも後押ししたと考えられている。AppleがAR市場に再び参入する可能性はあるが、現時点では明確な方向性は見えていない。
AppleのARグラス開発が頓挫した背景 技術的課題と市場の壁
Appleが開発していたARグラス「N107」は、一般的なメガネのようなデザインながら装着者だけに情報を表示する構想だった。しかし、プロジェクトが進むにつれ、解決が困難な技術的課題が浮き彫りとなった。
当初、グラスはiPhoneと接続して動作する設計だったが、処理負荷が高すぎてバッテリー消耗が激しく、長時間の利用に耐えなかった。このため、AppleはMacとのペアリングに切り替えたが、十分なパフォーマンスを確保できず、ユーザー体験が損なわれる結果となった。また、ARグラスに必要なディスプレイ技術やセンサーの小型化が難航し、視認性や装着感を損なわずに十分な機能を持たせることができなかった。
市場の動向も開発中止の要因となった可能性がある。Apple Vision Proの販売は伸び悩み、価格の高さがネックになっていると指摘されている。ARグラスも同様に高額になれば、一般ユーザーには普及しづらい。加えて、Metaが低価格帯のスマートグラスを展開していることを考慮すると、Appleが競争力のある価格で市場に参入するのは難しかったと考えられる。
AppleはAR/VR分野で大きな野心を持っていたが、今回の決定はその戦略を大きく見直すことを意味する。今後の動向が注目されるところだ。
Metaが進めるARグラス戦略 Appleとの差が生まれた理由
対照的に、MetaはARグラス市場で一定の成果を上げている。同社がRay-Banと共同開発したスマートグラスは2024年に100万台以上販売され、価格の手頃さ(300ドルから)が普及を後押ししたとされる。
Metaの成功にはいくつかの要因がある。まず、ハードウェアの設計がシンプルで、スマートフォンとの連携を前提とした機能が中心になっている点が挙げられる。これにより、処理負荷を本体に分散させ、バッテリー持続時間を確保しながら、手頃な価格で提供することができた。また、MetaはAR/VR部門「Reality Labs」に巨額の投資を行っており、短期的な利益よりも市場開拓を優先する姿勢を貫いている。実際、2024年第4四半期には50億ドルの赤字を計上しており、売上はわずか11億ドルだったが、それでも同社はARグラスの開発を加速させている。
一方、Appleはこれまで高性能なデバイスを開発し、高価格帯で市場を開拓する戦略をとってきた。しかし、ARグラスの分野ではこの戦略が通用しなかった。高機能なデバイスを開発しようとするあまり、価格やバッテリー寿命、ユーザーの利便性といった基本的な課題を克服できなかったことが、プロジェクト中止の背景にあると考えられる。
Appleが今後この市場に再挑戦する可能性はあるが、Metaのように普及しやすい価格設定や、長時間使用を想定した設計を考慮する必要があるだろう。
Appleの今後の展開 Vision Proの次なる一手はあるのか
AppleがARグラスの開発を断念したとはいえ、同社が完全にこの分野を放棄するわけではない。現在、Vision Proの次世代機や、カメラを搭載したAirPodsの開発に取り組んでいると報じられている。
Vision Proは技術的には優れたデバイスだが、実用的な用途が少なく、価格が3,499ドルと高額なため、販売台数は伸び悩んでいる。Appleは2024年を通じて販売予測を下方修正し続け、最終的には50万台程度にとどまると見込まれている。この状況を受けて、Appleは次世代機で軽量化や価格の引き下げを進める可能性がある。
また、カメラを搭載したAirPodsの開発が進められていることも注目される。これは音声だけでなく、視覚的な情報を補助するウェアラブルデバイスとしての役割を担う可能性がある。AppleはiPhoneやMacとの連携を強化し、AR機能を持つデバイスを別の形で展開することを模索しているのかもしれない。
AR市場の競争は今後も続くが、Appleは現状のままでは後れを取るリスクがある。Metaのように手頃な価格で市場を開拓するのか、それとも新たな技術革新によって差別化を図るのか、次の一手が問われることになる。
Source:Gizmodo