2019年に提起されたApple Watchのバッテリー膨張を巡る集団訴訟が、6年の歳月を経て和解に至った。この訴訟は、Apple Watch Series 1、Series 2、Series 3の所有者が、バッテリー膨張によってディスプレイが外れるなどの問題に直面したことを受けて起こされたものだ。Appleは一貫して不正行為を否定してきたが、最終的に2,000万ドルの和解に同意し、影響を受けた所有者には補償金が支払われることとなった。

補償の対象となるのは、2015年4月24日から2024年2月6日までの間にバッテリー膨張に関する問題をAppleに報告したアメリカ在住のユーザーだ。補償額は20ドルから50ドルとされており、申請者の数によって変動する仕組みになっている。和解を受け入れた場合、Appleに対する追加の法的請求権は放棄することになるため、補償額の少なさに不満を抱くユーザーもいるかもしれない。

Apple側は、対象モデルの所有者に対する訴えには強く反対しながらも、さらなる訴訟を避けるために和解に踏み切ったと説明している。なお、補償を希望する場合、2025年4月10日までに申請を行う必要があり、詳細は和解専用サイトwatchsettlement.comで確認できる。

2,000万ドルという和解金は、Appleの財務規模からすれば取るに足らない額だ。2025年度第1四半期の決算によれば、同社の利益は363億ドルに上る。今回の和解がAppleの経営に与える影響はほぼ皆無と言えるが、長年続いた問題に一区切りがついたことは、対象ユーザーにとって一定の意味を持つだろう。

Apple Watchのバッテリー膨張問題はなぜ発生したのか

Apple Watchのバッテリー膨張問題は、特定のモデルに限定されていたが、根本的な原因は設計上の要素とバッテリーの特性にある。リチウムイオンバッテリーは、経年劣化や異常な発熱によって膨張する可能性があるが、Apple Watchのようなコンパクトなデバイスでは、バッテリーの膨張による影響が顕著に現れやすい。特に、Apple Watch Series 1、Series 2、Series 3のケースは、ディスプレイとの接着部分が強固ではなかったため、バッテリーが膨張するとディスプレイが外れるケースが発生していた。

この問題は、スマートウォッチだけでなくスマートフォンなどの電子機器全般にも共通するが、Apple Watchのような小型デバイスでは内部の空間に余裕がなく、膨張による影響がより直接的に現れる。Appleは一貫して「製品の品質に問題はない」との立場を取りながらも、影響を受けたユーザーに対して保証期間内の修理対応を実施していた。しかし、集団訴訟の提起により、バッテリー膨張に起因する設計上のリスクがあらためて議論されることとなった。

Appleはその後のモデルでバッテリーの安全性を向上させる対策を講じているとみられるが、具体的な設計変更については公表されていない。最新のApple Watchシリーズでは、バッテリー膨張が問題となったケースはほとんど報告されておらず、当時の設計に起因する特有の課題であった可能性がある。

和解による補償額は妥当なのか

今回の和解による補償額は、影響を受けたApple Watch所有者に対し、20ドルから50ドルと設定されている。これは、バッテリー膨張による修理費用や交換費用と比較すると、決して十分な額とは言えない。Apple Watchのバッテリー交換費用はモデルによって異なるが、一般的に80ドルから100ドル以上かかる場合が多い。さらに、ディスプレイが外れるなどの深刻なダメージを受けた場合、修理費用はより高額になる可能性がある。

また、今回の和解金総額は2,000万ドルに達しているが、Appleの年間利益と比較すると、極めて小さい額にとどまる。例えば、Appleの2025年度第1四半期の利益は363億ドルにのぼり、和解金の支払いが企業の経営に与える影響は皆無と言える。これを考慮すると、今回の和解はApple側にとって大きな負担にはならず、ユーザーにとっては補償額が物足りないと感じる可能性がある。

一方で、和解に応じることでAppleはさらなる法的措置を回避し、ユーザー側も追加の訴訟を起こすことなく一定の補償を受け取ることができる。この点を踏まえれば、今回の和解は双方にとって「妥協点」と言えるだろう。しかし、補償額の少なさを考えると、今後Appleが同様の問題を未然に防ぐ取り組みを強化することが、ユーザーの信頼を維持する上で不可欠になる。

今後のApple Watchに求められる改善点

バッテリー膨張問題は、スマートウォッチに限らず、あらゆるバッテリー搭載デバイスで発生し得る。しかし、Apple Watchのように身体に装着するデバイスでは、安全性の確保がより重要になる。今回の問題を受けて、Appleは今後さらなるバッテリー技術の改良や設計の見直しを進める必要があるだろう。

まず、バッテリーの膨張による影響を最小限に抑えるため、ケースとディスプレイの固定構造をより強固にすることが求められる。Appleは最新モデルで耐久性を向上させたとされるが、具体的な改良点は公表されていない。また、バッテリー膨張を早期に検知するシステムを導入し、問題が発生する前にユーザーが対応できる仕組みを取り入れることも有効だ。

さらに、Appleは過去の問題を踏まえ、バッテリー関連の保証制度をより充実させる必要がある。現在のAppleCare+ではバッテリー劣化が一定の基準を超えた場合に交換が可能だが、バッテリー膨張に対する保証は限定的だ。今後は、特定の不具合が確認された場合、保証対象外のデバイスでも無償対応を行うなど、ユーザーがより安心して製品を使用できる環境を整備することが期待される。

Source:Wccftech