Appleが過去にIntel製チップの採用を検討していたことが明らかになった。TSMCの創業者モリス・チャン氏によると、2011年にAppleはIntelのチップ製造能力を評価したが、CEOのTim Cookは品質に納得せず、最終的に採用を見送ったという。
当時、IntelはMac向けのプロセッサを供給していたが、iPhone向けの試作ではAppleの要求を満たせなかった。AppleのCOOであるジェフ・ウィリアムズ氏がIntelの試みを受け、一時的にTSMCとの交渉を中断したが、Cookは「Intelにはファウンドリーのノウハウがない」と判断。結果的にAppleはTSMCとの関係を強化し、現在に至る。
また、チャン氏はIntelの顧客対応にも言及し、当時のPCメーカーが同社の強硬な姿勢に不満を持っていたと指摘。仮にIntelがiPhone向けチップ市場に参入していた場合、スマートフォン業界の勢力図は変わっていた可能性がある。
AppleがIntel製チップを選ばなかった理由とは
AppleがiPhoneのチップ製造をIntelに依頼する可能性があったにもかかわらず、最終的にTSMCを選択した背景には、複数の要因が絡んでいた。まず、Intelは伝統的にPC向けプロセッサ市場を支配していたが、モバイル向けのチップ製造には十分なノウハウを持っていなかった。特に、iPhoneのような省電力設計が求められるデバイスにおいて、Intelのプロセッサは消費電力の最適化が不十分だった可能性がある。
加えて、Appleが求める高い品質基準をIntelが満たせなかった点も見逃せない。Tim CookがIntel製チップに満足しなかったというTSMC創業者モリス・チャンの証言は、この品質の問題を示唆している。Appleは製品のパフォーマンスと効率を重視する企業であり、わずかな妥協も許されなかったと考えられる。
さらに、Intelのファウンドリー事業の不安定さも一因だった。Intelは当時、チップの設計と製造を一手に担っていたが、外部企業のチップを受託生産する体制は確立されていなかった。その点、TSMCは長年にわたり半導体製造に特化し、Appleが求めるカスタムチップの大量生産に応えられる体制を整えていた。AppleがTSMCと長期的な関係を築くことを選んだのは、こうした信頼性と柔軟性が決め手になったと考えられる。
Intelのモバイル市場での苦戦が示す業界の変化
Appleとの契約を逃したIntelは、その後もスマートフォン市場で苦戦を強いられた。かつてPC市場で圧倒的なシェアを誇ったIntelだったが、スマートフォンの台頭により、半導体業界全体の勢力図が変化していった。
特に、スマートフォンの主要プロセッサはARMアーキテクチャが主流となっており、Intelのx86アーキテクチャはモバイル市場に適応しにくかった。このため、Intelは何度かモバイル向けチップの開発を試みたものの、バッテリー消費の最適化や発熱の問題を克服できず、結果として市場競争に敗れた。
また、モリス・チャンが指摘したように、Intelの顧客対応にも課題があった。PCメーカーとの関係が良好でなかったことが示すように、Intelは市場の変化に迅速に適応する柔軟性を欠いていた可能性がある。一方、TSMCはAppleやQualcommといった企業との強固なパートナーシップを築き、カスタムチップの需要に応えて成長を続けた。この対照的な動きが、現在の半導体業界におけるIntelの立ち位置を決定づけたと言えるだろう。
もしIntelがiPhoneのチップ製造を成功させていたら?
仮にIntelがiPhone向けのチップ製造で成功していた場合、スマートフォン業界の勢力図は大きく変わっていたかもしれない。Appleは現在、Aシリーズチップを独自に設計し、TSMCに製造を委託する形を取っているが、もしIntelがこの役割を担っていたとすれば、AppleとIntelの関係はより深いものになっていた可能性がある。
IntelがAppleのチップを製造していた場合、Macのプロセッサも同じくIntel製であることから、Appleのエコシステム全体がIntel依存のものになっていたかもしれない。その結果、AppleがMacにARMアーキテクチャを採用する決断も遅れていた可能性がある。実際、現在のMシリーズチップはAppleが自社設計し、TSMCが製造を担当しているが、この流れが生まれること自体がなかったかもしれない。
また、Intelがモバイル市場での地位を確立していた場合、QualcommやMediaTekのようなスマートフォン向けチップメーカーの成長にも影響を与えていた可能性がある。Intelがモバイルチップ市場で成功していれば、Snapdragonシリーズの市場シェアは現在ほどの規模にはならなかったかもしれない。
ただし、Intelが当時の技術的な課題を克服できたかは不透明だ。結果として、Appleはより安定した技術基盤を持つTSMCを選び、それが現在のスマートフォン市場の形を作り上げる要因の一つとなった。
Source:9to5Mac