Appleがアリゾナ州で国内チップ生産を進める中、台湾積体電路製造(TSMC)のCEOは、最先端チップがアメリカで製造される可能性が低いと指摘している。理由は複雑な規制の遵守、建設許可の取得プロセス、そして現地の建設規制にある。

TSMCは現在、アリゾナ州に65億ドルを投じ新工場を建設中だが、台湾の同様の工場に比べ2倍以上の時間を要している。これにより、アメリカの工場では最新技術ではなく、旧技術が採用される見込みである。この傾向はすでにAppleのチップ製造にも見られ、iPhoneやApple Watchに使用されるチップは最新技術ではない。

AI技術の進化と需要増加がこの状況を変える可能性もあるが、現時点ではアメリカでの革新的チップ生産は厳しいと言える。

TSMCの新工場が直面する複雑な建設プロセスとは

TSMCがアリゾナ州で建設中の新工場は、台湾と比較して建設プロセスが著しく複雑であることが明らかとなった。CEOのC.C. Wei氏によると、地元の建設規制や許可要件が厳しく、各段階での承認に長時間を要する点が大きな課題であるという。

たとえば、許可取得には台湾の2倍以上の時間がかかり、これがプロジェクト全体の進行を大幅に遅らせている。こうした状況は、単に建設コストを押し上げるだけでなく、技術更新のスピードにも影響を及ぼしている。この問題は、アメリカが抱えるインフラ整備の課題とも密接に関連している。

国際的な競争力を高めるためには、政府と企業が協力して規制の簡略化やプロセスの効率化に取り組む必要があると考えられる。一方で、こうした規制が地域の環境保護や安全基準を維持するために設けられていることも忘れてはならない。アメリカでの最先端技術の実現には、これらのバランスをいかに取るかが鍵となるだろう。

Appleのシリコン戦略とアメリカ製造の役割

Appleは現在、TSMCのアリゾナ工場でA16 Bionicチップを製造している。このチップは、iPhone 15のベースモデルやApple Watch Series 9に採用されており、高性能ではあるものの、Appleの最新技術革新を代表するものではない。

TSMCの工場が最新技術を採用できない背景には、アメリカの規制環境だけでなく、コストと効率の問題もあるとみられる。こうした状況下で、Appleはアメリカ国内での製造をどのように位置づけるべきかが問われている。

国内生産を重視することでサプライチェーンのリスクを軽減し、国家政策にも応える一方で、最先端技術の研究開発とその適用は依然として台湾を中心とした体制に依存している。この戦略の是非については、短期的な経済効果だけでなく、長期的な技術革新や競争力を視野に入れて議論する必要がある。

アメリカでの最先端技術開発に向けた課題と展望

TSMCのコメントは、アメリカでの最先端技術開発における課題を浮き彫りにした。一方で、AIの急速な成長やそれに伴うチップ需要の増大は、今後の状況を変える可能性がある。特に、アメリカ政府のCHIPS法を通じた助成金は、企業の技術投資を後押しする重要な役割を果たしている。

この資金が規制改善や新技術の導入を加速する鍵となるかもしれない。ただし、こうした展望には慎重な見方も必要である。短期的には、コストや効率性の観点から、アメリカ国内での最先端技術の実現は難しいと考えられる。

しかし、地元企業や政府が連携し、規制緩和や技術開発を推進することで、将来的には国際競争力を強化する可能性がある。これには、民間部門だけでなく、政府の一貫した政策支援が不可欠である。アメリカでの最先端技術開発が実現する日を期待したい。