ソフトバンク傘下の半導体設計企業ARMが、プロセッサ設計者Ampere Computingの買収を検討しているとの報道が浮上した。この動きにより、ARMは自社で完全なプロセッサを製造する専門知識を獲得し、新たな収益モデルへの可能性を広げる意図があると見られる。

これまでARMは主にCPUコア設計のライセンス供与に特化してきたが、Ampereの独自技術を取り込むことで市場での競争力を強化する狙いがあるようだ。買収対象のAmpereはOracleが主要顧客として知られるが、競争環境にはAmazonやGoogleといった大手企業が独自設計を進めるなどの課題が存在する。

また、ARMの計画が反トラスト機関による審査を通過するかは不透明である。2022年にNvidiaによるARM買収が阻止された前例を踏まえ、規制の動向が焦点となる。業界全体で激化するプロセッサ競争において、ARMの戦略転換が市場にどのような影響を与えるか注目される。

ARMが抱える自社プロセッサ開発の野望と課題

ARMはこれまで、ライセンスモデルを中心に事業を展開してきたが、自社プロセッサの開発に踏み出す意欲を明確にしつつある。これは、同社がAmpere Computingの買収を検討しているとの報道と合致する動きである。AmpereはOracleを主要顧客に持ち、Neoverseコアの採用から独自設計への転換を果たしている企業だ。

この買収が実現すれば、ARMはAmpereの技術基盤を利用して、自社プロセッサ設計を加速させる可能性がある。しかし、自社プロセッサを販売することはARMの既存ビジネスモデルと競合するリスクを伴う。

現在、同社の主要な収益源は他社へのライセンス供与であるが、自社製品を展開することでライセンス取得者との関係が悪化する懸念がある。さらに、Ampereが直面しているOracle以外の顧客基盤の弱さも克服すべき課題として挙げられる。

この戦略転換には、Rene Haas CEOのリーダーシップが鍵となるだろう。Bloombergが報じた内部情報によれば、ARMは現在進行中のQualcommとの法廷闘争でも自社プロセッサ開発の可能性を示唆しており、業界全体での競争力強化が急務とされている。

半導体市場における競争の加速と規制の壁

半導体業界は、ARMだけでなくQualcomm、Intel、AMDといった競合他社が新たなプロセッサ技術を模索する中で、急激な競争の激化を迎えている。特にQualcommはNuviaの買収を通じてサーバープロセッサ市場への進出を計画しており、Intelの元XeonアーキテクトであるSailesh Kottapalli氏を招聘した動きが注目されている。

ARMがAmpereの買収に成功したとしても、これらの競合他社に対抗するにはさらなる技術革新が求められる。一方、規制当局による審査の壁は依然として高い。NvidiaがARMの買収を試みた際には反トラスト法の観点から阻止されており、今回のAmpere買収計画も同様の障害に直面する可能性がある。

特に、ARMが自社製品を展開することで、ライセンス取得者との競合が生じる点は、規制当局が注目する要因となるだろう。これに対し、ARMがどのように反論を構築するかが鍵となる。

例えば、Ampereの技術を独占するのではなく、広範な市場で共有する形を模索するなど、規制に抵触しない戦略が必要だ。ソフトバンクがこれまでに築いてきた多様な資本関係や提携を活かせるかどうかが試される局面である。

新たなプロセッサ市場の可能性とARMの選択肢

もしARMがAmpereを取り込むことに成功すれば、クラウドサーバーやエッジコンピューティングといった分野で新たな市場を開拓する可能性がある。現在、大手ハイパースケーラー企業は独自プロセッサの開発を進めており、Amazon、Google、Metaなどは既にAMDやIntel製プロセッサに依存しない環境を構築している。

これに対抗するには、ARMが提供する技術が他社にはない優位性を持つ必要がある。その一方で、独自プロセッサの開発には多大な投資と時間を要する。仮に成功すれば、市場への大きな影響力を発揮できるが、失敗した場合のリスクも大きい。この点で、ARMが慎重なアプローチを取る可能性も排除できない。

Ampereの買収が実現すれば、ARMは技術革新と事業モデルの転換を進めることになるが、その実現には多くの不確定要素が絡む。半導体市場の未来を左右するARMの選択肢に注目が集まる。