TikTokの親会社であるByteDanceが、米国制裁の影響を受けつつも高度なNvidia GPUへのアクセスを模索している。海外のクラウドデータセンターを活用することで、制裁を回避しつつAI技術開発を推進する方針が浮上しているのだ。同社は来年、これに最大70億ドルを投入し、AIハードウェアへの依存度を高める可能性が指摘されている。
報告によれば、クラウド経由でのNvidia H100 GPU利用が主軸であり、中東やアジアのプロバイダーと連携する見通しがある。一方で、自社開発プロセッサーへの移行も進行中で、長期的な依存削減を図る動きも注目される。制裁の隙間を縫う戦略は、AI分野での競争優位性を維持する上でどのような影響をもたらすのか、その行方が注視される。
クラウドGPU活用の背景にある米国制裁の影響
ByteDanceは、米国の厳しい輸出規制により、Nvidiaの高性能GPUを直接購入することが不可能となった。この制裁措置は、中国のAIおよび高性能計算(HPC)分野の進展を抑制することを目的としている。Nvidia H100 GPUのような先端技術は、AIモデルのトレーニングや推論において重要な役割を果たすが、ByteDanceはこのハードウェアを利用するために海外のクラウドデータセンターを活用する道を選んだ。
特に中東やアジア諸国のクラウドサービスを通じた間接的なGPU利用は、制裁を完全に遵守しながらも技術的な優位性を維持する戦略として注目される。米国の規制がクラウドプロバイダー間の地理的な制約を及ぼさないため、このアプローチは合法性を保ちながらも柔軟性を確保できる方法といえる。こうした動きは、他の企業にとっても先例となり得る。
独自プロセッサー開発による長期的な自立性確保
ByteDanceは、Broadcomと協力して独自のAIプロセッサーを開発している。これらのプロセッサーは、台湾積体電路製造(TSMC)のN4およびN5プロセス技術を用いて製造され、2026年に量産予定とされる。社内開発のプロセッサーは、Nvidia製品ほどの性能には達しない可能性が高いが、費用対効果の観点では大きなメリットがあると見られる。
特に中国政府がAI分野の国産化を進める中で、ByteDanceの動きは戦略的な意味合いを持つ。自社製プロセッサーは、外部供給に対する依存度を低下させ、地政学的リスクの軽減にも寄与する。これにより、同社は米国規制のさらなる強化にも耐えうる技術基盤を構築しつつ、AI開発競争において競争力を維持する可能性がある。
巨額投資が示すAI技術への野心と課題
ByteDanceが70億ドルをGPUアクセスに投じるという報告は、同社のAI技術に対する野心を如実に示している。しかし、これだけの巨額投資が具体的にどのような成果をもたらすのかは不透明である。同社最大のAIプロジェクトとされるDoubao AIチャットボットは5,100万人のアクティブユーザーを持つが、この規模に対して現行のAIインフラが必要以上の能力を持つ可能性もある。
さらに、H100 GPUの大規模なクラウドレンタルが計画通り実現するかも課題だ。中東やアジアにこれほど多くのGPUが利用可能であるかは明らかでなく、必要とされるAI能力の規模や用途にも疑問が残る。ByteDanceがこれを克服し、投資を最大限に活用できるかどうかが、今後のAI戦略の鍵を握るだろう。