サイバー犯罪者が偽のAI動画編集ソフト「EditPro」を使い、WindowsとmacOSユーザーを標的にした新たな攻撃を仕掛けていることが明らかになった。この偽ソフトは、AIによる写真・動画編集機能を謳い、魅力的な広告でユーザーを騙してダウンロードさせる仕組みだが、実態はLumma StealerやAMOSといった高度なマルウェアを拡散させるツールである。

特に「Lumma Stealer」は、ログイン情報や暗号通貨ウォレットの情報を盗む目的で設計されたマルウェアで、2022年以降頻繁にアップデートされてきた。一方、「AMOS」は初心者の攻撃者でも簡単にマルウェアキャンペーンを展開できるツールとして機能し、大規模なサイバー攻撃を効率化するシステムを提供する。

この攻撃の一端には、ディープフェイク動画を活用した広告が含まれ、手口はますます巧妙化している。デバイス感染後の被害は甚大であり、パスワードの漏洩や財産の損失が懸念される。感染が疑われる場合は迅速な対策が求められる。

偽ソフト「EditPro」の背後に潜む巧妙な広告手法

偽のAI動画編集ソフト「EditPro」は、主に「editproai[dot]pro」というサイトを通じて配布され、ソーシャルメディア上の広告で拡散されている。この広告には、AI技術を駆使した高度な編集機能が強調されており、特にディープフェイク技術を使った動画が宣伝素材として使用されている。例えば、トランプ元大統領とバイデン大統領が共にアイスクリームを楽しむ動画は、その精巧さゆえにユーザーを惹きつける要因となった。

広告の手法としては、AI技術の信頼性や革新性を前面に押し出すことで、ユーザーの好奇心を煽る形式を採用している。また、信頼できるソフトのように見せかけるデザインやレビューも仕組まれていることが特徴だ。これにより、技術に詳しくない一般の利用者だけでなく、専門的なユーザーですら騙されるケースが増えている。セキュリティ研究者のg0njxaが指摘した通り、この広告キャンペーンの背後には計画的な心理操作が存在する。

これらの手法は、単なる詐欺的な広告に留まらず、情報窃取やマルウェア拡散を効率的に行う新たな脅威として位置づけられるべきである。

Lumma StealerとAMOSがもたらす多層的リスク

Lumma Stealerは、「マルウェア・アズ・ア・サービス(MaaS)」という形式で提供されており、その利用者は高度な技術力を持つ必要がない。これにより、犯罪組織だけでなく、個人規模の攻撃者にも利用される可能性が高まっている。このマルウェアは、クレジットカード情報や暗号通貨ウォレットのデータなど、極めて機密性の高い情報を狙う点で非常に危険だ。さらに、検出回避のための技術的な更新が頻繁に行われており、標的となるシステムの防御策を上回るスピードで進化している。

一方でAMOSは、攻撃者にとって利便性を飛躍的に高めるツールだ。マルウェアの展開や盗まれたデータの管理を一元化し、攻撃の規模や効率を向上させる。この仕組みは、サイバー犯罪を工業化する傾向を示しており、特に組織的な攻撃においてその威力を発揮している。

これらのツールの存在は、セキュリティ対策が単なる個別的な防御だけでは不十分であることを意味している。より包括的で予防的なアプローチが求められる状況に直面している。

独自解説:ディープフェイク技術とサイバー犯罪の未来

今回の事例で注目すべきは、ディープフェイク技術が単なるエンターテインメントやPRの範囲を超え、サイバー犯罪に利用されている点である。高度なAI技術によって作成されたリアルな動画は、情報操作だけでなく、詐欺の手段としても効果を発揮している。技術の進化が脅威の進化を助長している状況は無視できない現実だ。

一方で、こうした技術が悪用されるリスクに対処するための法的・技術的枠組みは、まだ十分に整備されていない。規制が追いつかない現状では、個人や企業が自らセキュリティ意識を高め、AI技術の正しい利用を推進する必要がある。

未来を見据えれば、ディープフェイク技術が犯罪者の手に渡ることで、さらなる情報漏洩や金融詐欺の発展が懸念される。しかし同時に、この技術を防御の手段として活用する可能性も秘めている。技術革新とその悪用のせめぎ合いは今後も続くと予想されるが、鍵を握るのは個々のユーザーの意識と行動であると言えるだろう。