スタートアップ企業Sightfulが開発していたARラップトップ「Spacetop」のプロジェクトが中止された。ARメガネをディスプレイとして使用する革新的な製品として注目されていたが、開発中止と共に予約金の返金が行われることが発表された。
同社はハードウェアではなく、Windows上で動作するソフトウェアに注力することを決定した。今後はWindows AIとの連携により、既存のラップトップでARグラスを活用した新たな体験を提供することを目指している。
ARラップトップの夢、なぜ終わったのか?
スタートアップ企業Sightfulは、ARラップトップ「Spacetop」の開発を中止することを決定した。Spacetopは、ARメガネをディスプレイとして使用し、物理的な画面を必要としないラップトップとして注目されていた。しかし、その実現は難しいと判断され、開発が打ち切られた。
この決定に至った背景には、AR技術の進化がまだ十分でないことや、ハードウェアのコストやバッテリー消費の課題がある。特に、バッテリーの問題はARメガネを使ったデバイスにおいて深刻で、長時間の使用が難しいという現実があった。SightfulのCEOであるタミル・ベルリナーも、この課題を克服するのが難しいことを認めている。
一方で、ARラップトップのコンセプト自体は将来的にも有望視されているが、現段階ではソフトウェアベースでの進化が必要であると見なされた。そのため、Sightfulはハードウェアからソフトウェアへとシフトし、新たなアプローチを取ることを決定した。これにより、ARメガネと既存のラップトップを組み合わせた、新たな体験を提供する方針に転換したのである。
WindowsとAIに注力する理由
Sightfulがハードウェアからソフトウェアへとシフトした最大の理由は、WindowsとAIの進化にある。Microsoftが推進するAI技術が、従来のラップトップとARメガネの統合に大きな可能性をもたらしているからだ。特に、Windows 11に組み込まれた「CoPilot AI」は、AIによるユーザー補助機能を提供し、AR体験をさらに進化させる。
Sightfulの決断は、AIが従来のARラップトップに求められていた機能を効率的に補完できると判断したためである。これにより、専用のハードウェアに依存せずとも、既存のラップトップとARメガネを使って高度な機能を実現できる道が開かれた。
また、AIはバッテリー効率の向上にも寄与する。従来、ARメガネを長時間使用するためには多大なエネルギーが必要であったが、AIの助けにより効率的な処理が可能となり、電力消費が大幅に抑えられる。Sightfulは、これらの技術的進展を最大限に活用し、より早く市場に対応できるソフトウェアソリューションを提供することを目指している。
新たなAR体験、グラスとソフトウェアの組み合わせ
Sightfulが開発する新たなソフトウェアは、Windows上で動作し、ARメガネを使った仮想ディスプレイ体験を提供する。これにより、従来のラップトップにディスプレイを追加することなく、ユーザーは複数のアプリケーションを同時に操作することができるようになる。具体的には、ARメガネをUSB-Cケーブルでラップトップに接続し、仮想画面を浮遊するウィンドウとして視認できる仕組みである。
この新しいAR体験は、特にプライバシー面での利便性が高い。ARメガネのディスプレイは外部からは見えないため、外出先でも安心して作業ができる。ビジネスマンや出張が多いユーザーにとっては、カフェや空港などで周囲の視線を気にすることなく作業を進められるのが大きなメリットである。
また、今後はARグラスに対応するアプリケーションも増加する見込みであり、Sightfulはその可能性を見据えて開発を進めている。現時点では、特定のARメガネに限定されているが、将来的にはさらに多様なデバイスとの互換性が期待されている。
未来のARデバイスにおけるAIとの融合
AR技術の未来を考える上で、AIとの融合は避けて通れない。Sightfulが目指すのは、Windows上でAIを活用し、ARグラスと連携することで新たな次元の体験を提供することである。AIによって仮想ディスプレイの最適化が行われ、ユーザーの作業効率が劇的に向上する可能性がある。
たとえば、AIはユーザーの使用パターンを学習し、必要な情報やアプリを適切なタイミングで表示することができる。また、AIの音声認識機能や自然言語処理技術を活用すれば、ARグラスを使ったインターフェースはさらに直感的で使いやすいものになるだろう。
さらに、Sightfulのソフトウェアは将来的に3DアプリケーションやXR(拡張現実)技術にも対応する可能性がある。これにより、現状の2D画面だけでなく、より没入感のある仮想空間での操作が可能になると期待されている。Sightfulは、このAIとARの融合が次世代デバイスのスタンダードとなる未来を見据えている。