ウェアラブルデバイスの普及が進む中、スマートウォッチやリングが報告する心拍変動のデータが、臨床現場で得られる結果とは異なることが明らかになった。

ウェストバージニア大学の研究により、これらのデバイスが心拍数を測定する方法には根本的な違いがあることが示された。

この差異は、消費者向けデバイスが使用する計測技術に起因しており、今後の開発には改善が求められる。

スマートウォッチの心拍変動測定の仕組み

スマートウォッチやリングなどのウェアラブルデバイスは、心拍変動(HRV)の測定に光電容積脈波(PPG)技術を使用している。この技術は、皮膚に光を当て、その反射を解析することで血流の変化を捉え、心拍数を推定するというものである。

一方、臨床現場で広く使用されているのは、電気信号を基に心拍数を測定する心電図(ECG)である。この方法では、胸部や四肢に装着した電極から得られる心臓の電気活動を直接記録するため、より正確なデータが得られるとされている。

PPGとECGの主な違いは、前者が血流に基づく間接的な測定であるのに対し、後者は心臓の電気的活動を直接測定する点にある。この違いが、スマートウォッチと臨床検査で報告される心拍変動の数値に差異を生じさせる一因となっている。

スマートウォッチの便利さが広く認識されているが、その計測データが臨床的な標準と同等の精度を持つかどうかについては、慎重な検討が必要である。特に、健康状態を管理するための指標として使用する際には、その限界を理解することが重要である。

臨床検査との比較における誤差の原因

スマートウォッチと臨床検査で報告される心拍変動のデータに差異が生じる主な原因は、血流が指や手首に到達するまでの「脈波到達時間」にある。この時間は、心臓が拍動してから血液が末梢に到達するまでの時間差を表しており、スマートウォッチではこの時間差が心拍変動の計測に影響を与える。

一方、心電図(ECG)は心臓の電気的活動を直接測定するため、このような時間差の影響を受けない。その結果、ECGによる測定は、より正確かつ信頼性の高いデータを提供する。スマートウォッチのPPG技術は、血流を基にした間接的な測定であり、これが臨床検査との差異を生む主要な要因となっている。

さらに、PPG技術では、外部環境の影響を受けやすいという欠点もある。例えば、手首の動きや皮膚の状態、さらにはデバイスの装着位置などが測定結果に影響を及ぼす可能性がある。これにより、同じ個人でも状況によって異なるデータが得られることがあり、信頼性に疑問が生じることがある。

これらの要因を総合的に考慮すると、スマートウォッチのデータは参考値としては有用であるが、医療現場で使用されるデータと同等の信頼性を持つとは言い難い。

各メーカーの計測方法とその精度

スマートウォッチの心拍変動測定における精度は、使用される計測方法によって異なる。特に、Appleが採用している「標準偏差(SDNN)」は、他のメーカーが使用する「二乗平均平方根(RMSSD)」と比較して、より正確なデータを提供することが研究により明らかにされている。

SDNNは、連続する心拍間隔の変動を統計的に評価する方法であり、心拍変動の全体的なばらつきを捉えることができるため、心臓の自律神経機能の評価に適しているとされる。これに対し、RMSSDは、連続する心拍間隔の変動の平方根を求める方法であり、短期間の変動に敏感であるが、長期的な評価には向かない可能性がある。

研究では、SDNNを用いるAppleの測定方法が、より一貫した結果を提供し、測定誤差が少ないことが示されている。これに対し、RMSSDを使用する他のメーカーのデバイスでは、計測結果に幅広い誤差が見られることが報告されている。

このように、使用する計測方法によって精度に違いが生じるため、ユーザーはデバイスの選択に際して、どの計測方法が採用されているかを確認することが重要である。

今後のウェアラブルデバイスの開発への期待

今回の研究結果は、ウェアラブルデバイスの開発における課題と改善の方向性を示している。特に、各メーカーが心拍変動の計測方法を見直し、より精度の高い方法を採用することが求められる。

具体的には、研究者たちは、より正確なデータを提供するために、SDNNなどの信頼性の高い計測方法への切り替えを推奨している。これにより、ユーザーはより正確な健康管理が可能となり、デバイスの信頼性も向上することが期待される。

また、今回の研究は、ウェアラブルデバイスが健康管理ツールとして進化するための第一歩であると位置付けられる。今後は、機械学習アルゴリズムを活用したデータ解析の精度向上や、臨床現場との連携によるデバイスの改良が進められることが期待される。

さらに、消費者向けデバイスの普及に伴い、一般ユーザーが自らの健康状態をより正確に把握できるようになることが重要である。このためには、ウェアラブルデバイスが提供するデータの信頼性を高める努力が欠かせない。