ウクライナのマーケットプレイス「OLX」に、未発売のSony Xperiaスマートフォンのプロトタイプが出品され、注目を集めている。このデバイスは「AG-1」として社内で認識されていたもので、市場に正式投入されることなく姿を消した。

搭載されているのはSnapdragon 855チップセットで、21:9の縦長ディスプレイを備えた特徴的なデザインを持つ。特に5G mmWave通信のための特別な設計が施されており、Sonyの開発戦略の一端を垣間見ることができる。

Sony Xperia AG-1が採用したSnapdragon 855と5G mmWaveの関係

Xperia AG-1は、QualcommのSnapdragon 855チップセットを搭載しており、当時としては最先端のパフォーマンスを提供するSoCだった。さらに、このプロトタイプはX50モデムを備え、5G mmWave通信に対応していた。

この技術は、超高速なデータ通信を可能にするが、通信範囲が狭く、建物や障害物の影響を受けやすいという特性がある。そのため、当時のスマートフォン市場ではmmWave対応機種はまだ限られていた。Xperia AG-1は、この通信規格を試験的に採用し、どの程度の実用性があるのかを検証していた可能性がある。

Sonyは最終的にこのモデルを市場に投入しなかったが、5G対応スマートフォンの開発において、重要な役割を果たしたことは間違いない。Xperia 1シリーズは最終的に19.5:9の画面比率へと変化したが、AG-1の21:9比率は動画視聴やゲーム用途での可能性を探る目的もあったのではないかと考えられる。

特にmmWaveの導入に関しては、ハードウェアの設計面での課題が大きかったはずだ。Xperia AG-1は縦長のフォームファクターを持つが、これはmmWaveのアンテナ配置の最適化を目的とした設計であった可能性が高い。当時、Sonyは通信インフラとデバイスの最適化を模索していた時期であり、AG-1はその過程で生まれた実験的なモデルだったと考えられる。

未発売に終わったXperia AG-1はなぜ市場に投入されなかったのか

このプロトタイプが市場に投入されなかった理由は明確にはなっていないが、いくつかの要因が考えられる。まず、5GのmmWave技術は、2019年当時の通信インフラではまだ十分に普及しておらず、商用化するメリットが限定的だった。

加えて、Xperia AG-1のサイズやデザインが一般ユーザーに受け入れられるかどうかも不透明だった。21:9という極端な縦長デザインは、Sonyが映像体験を強化するために推し進めたものだったが、スマートフォン市場では19.5:9や18:9といった比率のほうが主流だった。

さらに、Snapdragon 855とX50モデムの組み合わせは、初期の5G対応チップセットとしては高性能だったが、消費電力が大きく、発熱の問題も抱えていたとされる。これらの技術的な制約が、最終的にXperia AG-1を製品化することを難しくしたのではないかと考えられる。実際、Sonyがその後発売した5G対応機種は、より実用的なスペックやサイズに調整されている。

また、Sonyのモバイル事業は当時厳しい状況にあり、新しいデザインや機能に挑戦する余裕がなかった可能性もある。Xperia AG-1は、技術的な試みとしては優れたモデルだったが、採算性や市場ニーズを考慮した結果、開発が中止されたのかもしれない。もしこの端末が正式に発売されていたら、Sonyのスマートフォン市場における立ち位置は異なっていたかもしれない。

現在オークション市場に流出したXperia AG-1の価値とは

この希少なプロトタイプがウクライナのOLXに出品され、約240ドルという価格で販売されている。Sonyの社内テスト機でありながら、比較的手ごろな価格で取引されていることは興味深い。Xperiaシリーズの歴史を考えると、未発売のモデルが流出するケースは珍しく、コレクターにとっては非常に価値のあるアイテムといえる。

特に、デバイスが実際に動作する状態で出品されていることは大きなポイントだ。多くのプロトタイプ端末は、販売前の開発段階でOSが完全にロックされていたり、起動できなかったりすることが多い。しかし、今回のXperia AG-1は、通常のスマートフォンとして機能しているようだ。

これにより、実際に5G mmWave通信が利用できるのか、どのような動作仕様になっているのかといった点を検証することができる。また、Xperia AG-1が市場に出回った背景には、Sonyのテスト端末が第三者に流出する過程があった可能性も考えられる。

一般的に、プロトタイプは厳重に管理されるが、過去にもスマートフォンメーカーの試作機が流出するケースは存在している。技術的な遺産としても、またコレクターズアイテムとしても、この端末は特別な存在といえるだろう。

Source:NotebookCheck