ベンチマークソフトウェア開発企業のPassMarkは、2004年からCPU性能データを収集してきたが、2025年初頭のデータで初めて平均性能の低下を記録した。デスクトップでは0.5%、ノートPCでは3.4%の減少が確認されている。

この現象の原因として、ユーザーが低価格や省電力のCPUを選択する傾向や、システムにプリインストールされたソフトウェアの影響、さらにはWindows 11の普及などが考えられる。しかし、最も懸念されるのは、AMDやIntelの最新CPUが性能の限界に達し、技術的な進展が停滞している可能性である。今後の動向に注目が集まる。

CPUの進化が停滞する要因とは

CPUの性能が伸び悩む要因は複数考えられる。そのひとつに、プロセス技術の微細化が限界に近づいていることがある。これまでCPUの進化は、半導体の製造プロセスを微細化し、トランジスタ密度を高めることで実現されてきた。しかし、現在の主要メーカーであるIntelやAMDは、3nmや2nmといった極小スケールへの移行に直面しており、量産化の難易度が急激に上がっている。

また、CPUの消費電力と発熱の問題も性能向上を阻む要因のひとつだ。プロセッサの動作周波数を上げることで性能を向上させる方法は、電力消費の増加と発熱を伴う。特にノートPC向けのCPUでは、バッテリー持続時間や筐体の冷却能力が制限となり、過剰な発熱を抑えながらの性能向上が求められる。

そのため、性能向上のペースが鈍化している可能性がある。さらに、近年のCPU設計ではシングルスレッド性能よりも、マルチコア性能を強化する方向にシフトしている点も見逃せない。

例えば、Intelの最新世代CPUは、Pコア(高性能コア)とEコア(省電力コア)を組み合わせる設計を採用しており、純粋なシングルスレッド性能の向上は抑えられている。これにより、ベンチマークテストによる単純な性能評価では、過去のような劇的なスコア上昇が見られなくなっている可能性がある。

Windows環境に限定された性能低下の理由

今回のPassMarkのデータによると、CPU性能の低下はWindowsプラットフォームに限定されている。この点は、OSやソフトウェアの最適化に関する問題を示唆している可能性がある。例えば、Windows 11は新しいセキュリティ機能を多数導入しており、特にVBS(仮想化ベースのセキュリティ)やHVCI(ハードウェアによるコード整合性)が有効な場合、CPU負荷が増加することが指摘されている。

また、Windowsは長年にわたりレガシーなソフトウェアやハードウェアとの互換性を維持し続けているため、システム全体の最適化が難しくなる傾向がある。特に、Windows 10からWindows 11への移行に伴い、最新のCPU向けの最適化が進んでいない可能性もある。これにより、新型CPUの持つ本来のパフォーマンスが十分に発揮されていないのかもしれない。

一方、macOSやLinuxでは、同様の性能低下が報告されていないことも注目すべき点だ。特にAppleのMシリーズチップは、macOSと緊密に統合されており、Windows環境とは異なる最適化が行われている。

PassMarkのデータはWindows環境に基づいているため、他のOSでは異なる結果が出る可能性もある。これが、今回のCPU性能低下がWindows環境に限定されている理由のひとつであると考えられる。

今後のCPU開発の方向性

今後のCPU開発は、単純なクロック数やコア数の増加だけではなく、新しいアーキテクチャの導入が鍵を握る可能性が高い。例えば、近年ではAIアクセラレーション機能を搭載したCPUが登場しており、特定の処理に特化したハードウェアが重要視されるようになっている。

また、Armアーキテクチャの進化も無視できない要素だ。PassMarkのデータにも示されているように、Armベースのプロセッサが市場に拡大していることは明らかであり、AppleのMシリーズやQualcommのSnapdragon X Eliteのような高性能Armチップが、今後のCPU市場の競争を激化させる可能性がある。

特にWindows on Armが本格的に普及すれば、x86 CPUの市場シェアにも影響を与えるだろう。さらに、チップレット技術の進展も今後のCPU開発において重要な要素となる。AMDはすでにRyzenシリーズにおいてチップレット設計を採用しており、今後はIntelも同様の技術を取り入れると見られている。

このアプローチにより、単一ダイの限界を超えて、柔軟なプロセッサ設計が可能になるため、従来のプロセス技術の進化に依存せずとも性能向上を実現できる可能性がある。

現在のCPU性能の停滞は一時的なものなのか、それとも業界全体の転換点なのかはまだ不明だ。しかし、これまでとは異なる技術的アプローチが求められることは確実であり、今後数年間の動向がCPU市場の未来を決定づけることになるだろう。

Source:TechSpot