Nvidiaは、AIを活用した新技術「Neural Texture Compression(NTC)」を発表した。この技術により、複雑な3Dグラフィックスのレンダリング時に必要なVRAM容量を最大95%削減できる可能性がある。YouTubeチャンネル「Compusemble」が公開したデモでは、NTCを適用することで、テクスチャメモリの使用量が272MBから11.37MBにまで減少した。
ただし、現時点ではベータ版であり、パフォーマンスへの影響も観察されている。今後の最適化とGPUの進化により、さらなる性能向上が期待される。
Neural Texture Compressionの仕組みとは?AIによるリアルタイム圧縮の革新
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NvidiaのNeural Texture Compression(NTC)は、従来のブロック圧縮フォーマット(BCn)とは異なり、AIを活用してテクスチャデータを動的に圧縮・解凍する技術である。従来の手法では、テクスチャはあらかじめ固定の圧縮フォーマットで保存され、レンダリング時にはそのまま使用されるのが一般的だった。
一方、NTCはニューラルネットワークを活用し、必要なデータだけをリアルタイムで解凍することにより、VRAMの使用量を劇的に削減する。この技術は、テクスチャデータを一度圧縮してから再構築する従来の手法と異なり、GPUの処理能力を活かして動的にデコードを行うのが特徴である。
特に、Compusembleのデモでは、「Inference on Sample」モードが最大の効果を発揮し、従来の非ニューラル圧縮と比べて95.8%のVRAM削減を実現した。この結果、ディスク容量の節約だけでなく、高解像度テクスチャをより低いメモリ負荷で扱える可能性が示唆されている。
しかし、リアルタイムでの圧縮・解凍処理には計算負荷が伴い、特にTensorコアが活用されることで、DLSSなどの他のAI機能とリソースを分け合う形になる。GeForce RTX 4090のような最新GPUでは影響は最小限とされるが、エントリークラスのGPUではフレームレートに影響を与える可能性も考えられる。この点を踏まえ、最適化が進めば、将来的にはさらなる効率向上が期待される。
どのような場面で恩恵を受けるのか?次世代ゲームとVRへの影響
このNTC技術は、特に次世代のゲームやVRアプリケーションでの活用が想定される。近年のゲームでは4K解像度やレイトレーシングの普及により、テクスチャデータの容量が急激に増加している。そのため、大規模オープンワールドゲームでは、VRAMの使用量がボトルネックとなるケースが増えている。
例えば、「Cyberpunk 2077」や「Microsoft Flight Simulator」のようなフォトリアルなグラフィックスを重視するゲームでは、VRAMの制限により最高設定でのプレイが難しくなる場面もある。この問題に対して、NTCを導入することで、超高解像度テクスチャを低負荷で利用できる可能性がある。
特に、「Inference on Sample」モードを活用すれば、必要な部分のみを解凍するため、VRAM不足による画質低下を防ぐことができる。また、VR環境では高解像度テクスチャをリアルタイムでレンダリングする必要があるため、この技術は快適な体験を提供するための重要な要素になり得る。
一方で、現時点ではベータ版であるため、互換性や処理速度の最適化が課題となる。特に、既存のゲームエンジンとの統合がどのように進むかは未知数であり、開発者の対応次第では導入がスムーズに進まない可能性もある。しかし、今後NvidiaがAPIやSDKを提供することで、ゲーム開発者にとってより手軽な実装が可能になることが期待される。
AIによるレンダリング最適化の未来とNvidiaの方向性
Nvidiaは近年、DLSSやRTX RemixなどのAIを活用したレンダリング技術を積極的に推進している。Neural Texture Compressionもその一環として、AIによるデータ処理の最適化を目指している。特に、最新のAda Lovelaceアーキテクチャでは、Tensorコアの強化が進められており、AIを活用したリアルタイム処理がより効率的に行えるようになっている。
また、Microsoftが発表した「協調ベクトル(Cooperative Vectors)」との組み合わせにより、NTCはさらに高度な圧縮技術へと発展する可能性がある。協調ベクトルは、AIワークロードの処理を分担することで、計算負荷を最適化しながらレンダリング精度を向上させる技術である。これにより、VRやAR、さらにはメタバース分野においても、NTCは大きな役割を果たす可能性がある。
現時点では、NTCが業界標準として採用されるかどうかは不明だが、AIによるレンダリング最適化の流れは今後加速すると考えられる。特に、低VRAM環境でのパフォーマンス向上や、クラウドゲーミングへの適用など、用途の拡大が期待される。Nvidiaの次世代GPUでは、NTCが標準機能として統合される可能性もあり、ゲームの表現力と最適化技術の進化を見守る必要がある。
Source:TechSpot