Snapdragonチップを搭載したCopilot+ PCは、一時、店頭から撤去され破棄されるリスクに直面していた。しかし、Arm HoldingsがQualcommとのライセンス契約終了の脅威を撤回したことで、その危機は回避された。この動きは、両社間の法的闘争におけるQualcommの新たな勝利を示している。

昨年12月、Qualcommはこの裁判の重要な2つの争点で勝訴しており、今回の発表はその延長線上にある。Qualcommの最新チップ「Snapdragon 8 Elite」も、Nuvia買収を通じて得たOryon技術をベースに構築されているため、ArmとQualcommのライセンス契約が終了すれば、スマートフォンにも影響を及ぼす可能性があった。

しかし、Armがライセンス契約終了の脅威を撤回したことで、少なくとも現時点では、Snapdragonを搭載したPCが市場から撤去される事態は回避された。今後、ArmとQualcommの間でさらなる法的な動きがある可能性はあるものの、消費者はSnapdragon搭載PCが今後も店頭に並び続けると考えてよいだろう。

ArmとQualcommの対立がもたらした影響とは

ArmとQualcommの法廷闘争は、単なる企業間のライセンス問題にとどまらず、多くのデバイスに影響を及ぼす可能性があった。特にSnapdragon Xシリーズを搭載するCopilot+ PCは、AI機能を前面に押し出した新世代のPCであり、仮に販売が停止されるような事態になれば、多くのユーザーに混乱を招いた可能性がある。

MicrosoftはCopilot+ PCをWindows AI戦略の中核に据えており、その基盤となるSnapdragonチップが市場から撤退すれば、Windows向けのAI統合計画にも影響が出ることは避けられなかった。また、Snapdragon Xシリーズの消滅は、Appleシリコンの対抗馬として期待されていたWindows PCの選択肢を狭めることになった可能性がある。

AppleはMシリーズチップを独自開発し、MacBookの性能と電力効率を大幅に向上させた。一方、Windows PCの世界では、IntelやAMDが長らく市場を牽引してきたが、Snapdragon Xの登場により、新たな選択肢が増えた。もしArmのライセンス問題が決定打となっていた場合、Appleの優位性がさらに強まっていたかもしれない。

今回の合意により、このシナリオは回避されたが、ArmとQualcommの関係が完全に修復されたわけではない。今後もライセンス契約の見直しや新たな技術の交渉が続くことが予想され、次世代のPC市場にどのような影響を及ぼすかは注視する必要がある。

ArmとQualcommの技術的対立の背景

この対立の背景には、単なるライセンス契約の問題だけでなく、技術的な支配権をめぐる駆け引きがある。Qualcommは、Nuviaの買収を通じて独自のCPU設計技術を手に入れたが、この技術は元々Armのライセンスを受けていたものだった。

ArmはQualcommがNuviaの技術を利用するには、新たなライセンス契約が必要であると主張していたのに対し、Qualcommは既存の契約が有効であると反論した。また、Armは最近、自社アーキテクチャのカスタマイズを厳しく制限しようとしているとも言われている。

これまでQualcommは、Armの設計を基に独自の改良を加えたSnapdragonチップを開発してきたが、Armがライセンスポリシーを変更すれば、カスタム設計の自由度が制限される可能性がある。こうした動きは、AppleのMシリーズのような高性能なカスタムArmチップを開発する上での大きな障壁となり得る。

一方、Qualcommにとっても、Armとの関係は依然として重要だ。Qualcommが将来的に完全にArmアーキテクチャから脱却する可能性は低く、今後も一定のライセンス料を支払う形で技術提携を続けると考えられる。

ただし、今回の一件を機に、QualcommがArm依存から脱却し、自社設計のCPU技術をより強化する可能性もある。今後、Qualcommがどのような戦略を取るのかが、PC市場全体にも影響を及ぼすことになりそうだ。

次世代PC市場への影響と今後の展望

今回の和解により、短期的にはSnapdragonを搭載したCopilot+ PCの存続が確保されたが、長期的に見ればArmとQualcommの関係が再び緊張する可能性は残る。このため、次世代PC市場では、いくつかのシナリオが考えられる。

第一に、QualcommがArmからの独立を強め、自社開発のCPUアーキテクチャをさらに強化する可能性がある。Oryon CPUはその第一歩であり、将来的にはArmライセンスなしで動作するチップ開発にシフトするかもしれない。これにより、Windows PC向けのチップ市場に新たな競争が生まれることが期待される。

第二に、Armがライセンス契約の厳格化を進める場合、他のPCメーカーも影響を受ける可能性がある。MicrosoftはCopilot+ PCのラインアップを拡大する計画を持っており、Snapdragon以外の選択肢も視野に入れる可能性がある。IntelやAMDのx86アーキテクチャが再び脚光を浴びることもあり得るし、あるいは別のArmベースのチップメーカーが市場に参入する可能性もある。

第三に、今回の合意がきっかけとなり、ArmとQualcommがより安定した関係を築く可能性もある。Appleが独自のArmベースチップを開発し続ける中、Windows向けのArm PC市場を発展させるには、ArmとQualcommの協力が不可欠だ。特に、AI機能を重視した次世代PCの開発には、両社の技術が大きく関与することになるだろう。

いずれにせよ、今回の合意が短期的な安心材料であることは間違いないが、長期的にはさらなる動向に注意が必要だ。ArmとQualcommの関係がどのように進化していくのか、それによって次世代PCの選択肢がどう変化するのか、今後も目が離せない。

Source:Windows Central