台湾のTSMCがアリゾナ州に建設した半導体工場が稼働を開始し、Apple製品向けプロセッサの出荷が間近となった。このプロジェクトは米国製造業復活の象徴とされるが、最新技術や生産能力で台湾に匹敵するものではない。

実際、製造工程の多くは国外に依存しており、Appleのサプライチェーン戦略が直面する現実的な課題が浮き彫りとなった。製造業再興を目指す米国にとっても、競争力のある技術基盤の確立は依然として大きな壁となっている。

アリゾナ工場建設の背景とプロジェクト拡大の経緯

TSMCのアリゾナ工場計画は、米国内製造拡大への圧力を背景に2020年に発表された。同時期、米国政府は半導体製造を国内回帰させるための政策を強化し、企業への税制優遇を推進した。これにより、TSMCは最初の工場に加え、2022年には2つ目の工場建設を決定。Appleのティム・クックCEOも同地のプロセッサ採用を宣言し、技術的信頼性を示した。

2024年9月、アリゾナ工場はA16プロセッサの生産を開始したが、これはiPhone 14 Pro向けのチップであり、最新のA17や次世代チップの製造には対応していない。このため、製造能力の差は依然として大きく、特に台湾の本拠地工場は高性能なプロセッサ製造で優位を保っている。工場の稼働は象徴的な意味を持つものの、台湾に匹敵する技術力を短期間で確立することは難しいとされる。

TSMCが示したアリゾナ工場拡大の計画は米国の供給網強化の一環だが、それは同時に巨額の投資と現地インフラ整備が必要な困難な道でもある。

アリゾナ工場の運営が抱える課題と技術的制約

アリゾナ工場は「米国内生産」の象徴である一方、多くの課題を抱えている。その一つが熟練技術者の確保であり、最先端の半導体製造に必要な専門知識を持つ人材は限られている。また、作業員不足が工場建設の初期段階で深刻化し、安全管理の不備から死亡事故も発生した。こうした要因は、プロジェクト全体の進捗に遅れをもたらした。

さらに、A16プロセッサの製造工程は複雑であり、製造後のパッケージング作業は米国ピオリア市のAmkor工場で行う予定だが、この工場の稼働開始は2027年と見込まれている。その間、組み立て工程は引き続き台湾や中国の施設に依存せざるを得ない状況である。このように、真に自給自足の供給網には至らず、国外依存の解消は長期的な課題となっている。

また、Appleのデバイス製造は、細部に至るまで厳格な品質基準を求めているため、品質保証の工程を米国内で一括するには膨大な準備が必要である。これにより、国内での製造移行は部分的な進展にとどまっている。

製造業復活の象徴と見られる背景と評価

ティム・クックCEOは、過去の公式発言で米国内の雇用創出を重視してきたが、実際には現地工場の多くが多額の助成金を受けた「象徴的な取り組み」と見なされることも多い。Appleは2018年にiPhone用ディスプレイガラスをケンタッキー州の工場で製造し、国内生産への関与を強調してきたが、長期的な影響は限定的であった。

同様に、アリゾナ工場の稼働は政治的な「勝利」として注目を集めるが、必要な部品や素材の確保は依然として国外に頼る部分が多い。2012年に米国製Mac Proの製造がネジ調達の遅れで停滞した例は、基盤の脆弱さを象徴している。このため、Appleは米国内製造のプロセス全体を自立させるための技術基盤を再構築する必要がある。

このような背景を踏まえると、アリゾナ工場は米国製造業復興の象徴としての役割を果たしつつも、台湾に並ぶ存在になるためには、多岐にわたる課題を克服する必要がある。製造業再興は一朝一夕では実現せず、グローバル競争の中で米国製造の優位性を築くには長期的な視点と投資が求められるだろう。