台湾の半導体大手TSMCは、シンガポールの企業「PowerAIR」との取引を断絶した。これは、同社がTSMC製のチップをファーウェイのAIプロセッサに供給していた疑いが調査によって浮上したためである。この動きは「サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)」の報道によって明らかになったもので、TSMCは米国制裁下にあるファーウェイとの間接的な関係を一切遮断する姿勢を強調している。

一方、ファーウェイは国内企業SMICを頼りに先端チップの確保を試みるが、EUVリソグラフィ装置の不足が技術向上を阻んでいる。さらに、ファーウェイは高度な人材を引き抜くため、給与3倍の提示や特典強化を行い、TSMCやASMLサプライチェーンに圧力をかけているとされる。

バイデン政権下での制裁強化により、半導体業界の供給網は依然として揺れており、TSMCの対応は業界全体の注目を集めている。SMICの技術限界も相まって、ファーウェイの戦略は厳しい状況に直面している。

TSMCが直面するサプライチェーンのリスクと米国制裁の影響

TSMCは、米国の厳格な制裁措置に従い、ファーウェイに間接的に関与するリスクを回避するため、シンガポール企業「PowerAIR」との取引を停止した。この背景には、米国が半導体技術の漏洩を防ぐため、同盟国や関連企業に対して徹底した規制を求めている現状がある。

米国は、最先端半導体技術が軍事的脅威に転用されることを懸念し、関連企業が迂回ルートを利用してファーウェイにチップを供給する事態を防ごうとしている。TSMCにとっては、信頼を損なうリスクを回避することが最優先であり、今回の取引停止は、米国政府との連携を示す重要な一手と言えるだろう。

一方で、TSMCが関係を断ったシンガポールの企業は小規模であり、今回の一件が業界全体に大きな波紋を広げるかは未知数である。しかし、今回の動きは、サプライチェーン全体が米国制裁の影響を受け、サプライヤー側に多大な注意義務が求められる時代が到来していることを示唆している。

SMICの限界とファーウェイの自立への試練

ファーウェイは、TSMCからの供給停止を受け、中国国内の「中芯国際集成電路製造(SMIC)」を頼りにチップ調達を進めている。しかし、SMICの製造能力には限界があり、特に先端プロセスでは競争力に欠ける。EUVリソグラフィ装置を保有していないため、複数の工程を用いる「マルチパターニング技術」で対応しているが、この手法は製造コストを増大させ、品質低下を招きやすい。

これにより、SMIC製のチップは高性能を求める用途では採用されにくい状況となり、ファーウェイの製品競争力も制限を受けている。また、ファーウェイは国内技術の強化を掲げているものの、特定装置の不足により、最新世代のAIプロセッサ開発は大きな壁に直面している。

この現状は、半導体製造技術の国際的な格差を浮き彫りにしており、ファーウェイが今後、自前の技術開発にどれだけ投資できるかが成否を左右するポイントとなるだろう。TSMCの動向次第で、ファーウェイの次世代戦略はますます困難を極める可能性がある。

半導体業界における人材争奪戦とファーウェイの戦略

ファーウェイはTSMCのエンジニアを引き抜くため、通常の3倍の給与や手厚い待遇を提示し、技術者確保を図っている。この背景には、先端半導体開発において高度な人材が欠かせないという現実がある。特にTSMCやオランダのASMLに関わるサプライチェーンは、世界でもトップクラスの技術者が集まる拠点であり、ファーウェイはこうした人材獲得競争に注力している。

しかし、単なる報酬の引き上げでは、競合他社から優秀な人材を引き抜ける保証はない。TSMCなどの企業は、技術者に対して充実した研究環境と成長機会を提供しており、ファーウェイの提示する条件以上の魅力を備えている場合も多い。

また、半導体製造装置を独占するASMLの光学技術を担う「ツァイス」などの部品メーカーも注目されており、ファーウェイがどこまでサプライチェーンの隙間を狙うかが焦点となっている。この人材戦略は、短期的な成果を狙うだけでなく、半導体産業の持続的成長を左右する要素となりつつある。