台湾積体電路製造(TSMC)のアリゾナ工場で、新たにApple Watch向けのS9チップ製造が始まった。この工場は2024年9月に操業を開始し、A16チップの生産で注目を集めていたが、わずか数カ月でさらなる生産能力を拡大。

S9チップはA16を基に設計されたシステムインパッケージ(SiP)であり、Appleの最新製品に重要な役割を果たしている。現在、この工場ではAMDのRyzen 9000シリーズも生産中で、10,000枚のウェハー生産を行うフェーズ1A段階にある。

将来的にはフェーズ1Bの進展により、ウェハー生産能力が24,000枚に増加する計画であり、米国の半導体産業における重要な拠点となる見込みだ。

TSMCアリゾナ工場の成長計画と米国の半導体戦略

TSMCはアリゾナ工場のフェーズ1A段階で10,000枚のウェハーを生産し、AppleとAMDの2社への供給を確立したが、今後のフェーズ1Bでその生産能力は月間24,000枚へと大幅に増加する予定である。これは米国が掲げる半導体製造強化の一環であり、「CHIPS for America Fund」による66億ドルの支援が進展を後押ししている。

特に半導体業界において米国内製造の重要性が高まっている中、TSMCの投資は他企業の進出をも促す動きとなりうる。加えて、工場建設には最大20,000人の作業員が必要とされ、現地経済への波及効果も大きい。一方で、半導体製造には高度な技術者の確保や設備導入の遅れといった課題も存在する。

Tim Culpanは工具の供給遅延を指摘しており、このような問題が計画の進捗に影響を与えることは避けられないだろう。しかし、TSMCは現地のサプライチェーン強化を進めており、スケジュールに対する信頼性を高めるための取り組みを行っていると見られる。

SiP製造の背景にある技術的選択とその影響

Apple Watch用S9チップの生産が行われているTSMCアリゾナ工場は、N4 4ナノメートルプロセスを用いたA16チップの生産実績を持つ。このことから、同じプロセス技術を用いるSiP製造は合理的な選択である。SiPは複数の機能を一体化した構造を持ち、省スペースかつ高性能化を実現する点でウェアラブルデバイスに最適な技術といえる。

このような高度な生産技術を米国国内で確立することは、Appleにとっても供給リスク軽減のメリットが大きい。TSMCはかねてより台湾の工場に生産を集中していたが、地政学的リスクを分散する必要性から米国に生産拠点を新設した経緯がある。

特に、米国市場でのウェアラブルデバイス需要拡大が進む中、Apple Watch向けチップ生産をアリゾナ工場で開始することで、より迅速な供給体制を構築できると見られている。

米国と台湾企業の連携が示す今後の展望

TSMCのアリゾナ工場ではAppleに加えてAMDもRyzen 9000シリーズの生産を行っている。このように複数のハイテク企業が同一工場を利用する状況は、米国内における半導体供給網の多様化を象徴するものだ。しかし、TSMCの巨額投資や補助金受給には、政府からの高い期待が伴うため、生産スケジュールの遅延やコスト増が問題化すれば、追加的な規制や監査が発生する可能性もある。

今後、アリゾナにおける工場建設が計画通り進めば、TSMCは3つの工場を稼働させ、米国最大級の半導体製造拠点となる見込みである。しかし、競争が激化する半導体市場では、他の企業も同様の投資を進める動きが予測されており、TSMCが主導的地位を維持するにはさらなる技術革新が求められるだろう。

AppleやAMDとの長期的パートナーシップは重要であり、成功すれば他国の製造モデルにも影響を与える可能性がある。