次世代チップ「Snapdragon 8 Elite 2」の製造がTSMCの3nmプロセスに完全移行されることで、Samsungの半導体ファウンドリ事業に新たな試練が訪れた。Qualcommは当初、TSMCとSamsungの二社体制を検討していたが、Samsungの歩留まり率の低迷が原因で方針を転換した。Snapdragon 8 Elite 2だけでなく、Snapdragon 8s EliteについてもSamsungは契約を逃している。

一方、Samsungは自社の先端技術を活用した2nmプロセスや米国の新工場に期待を寄せており、2025年末以降にその競争力を発揮するとみられる。また、Exynos 2500を一部モデルに投入する計画も進行中であり、最新技術で市場シェアを奪還する狙いがある。この競争は半導体業界の勢力図を大きく左右する可能性を秘めている。

QualcommがTSMCを選んだ背景 歩留まり率がもたらす影響

QualcommがSnapdragon 8 Elite 2の製造をTSMCに完全依存する決定を下した理由には、Samsungの歩留まり率の課題が深く関係している。半導体製造では歩留まり率、つまり不良品の割合が極めて重要である。TSMCの第3世代3nmプロセス(N3P)は、製造の信頼性と収益性を保証する水準に達しており、Qualcommにとってリスクの低い選択肢といえた。

一方、SamsungのSF2技術は期待を集めていたものの、複数の専門家が指摘するように、量産時の安定性が依然として課題であるとされている。

TSMCが提供する安定した製造能力は、Qualcommのグローバル市場における競争力を直接的に支えている。この動きは単なる技術的な選択ではなく、サプライチェーン全体に大きな影響を与える可能性がある。

一方で、Samsungがこれらの問題を克服するためには、技術の革新だけでなく、顧客との信頼構築が欠かせない。これは、製造コストと製品の市場投入スピードが競争の要因となる業界全体において重要な課題である。


2nmプロセスの商業化 未来を見据えたSamsungの挑戦

SamsungはTSMCに市場シェアを奪われつつある状況の中で、2nmプロセスという次世代技術に大きな賭けをしている。このプロセスは、2025年末に商業化される予定であり、2026年には米国のテイラー工場が稼働を開始する。

米国市場での生産基盤を確保することで、地政学的なリスクを分散し、顧客に対する信頼性を高める狙いがあるとみられる。また、テイラー工場はSamsungの製造能力の進化を示す象徴的な存在となる可能性を秘めている。

ただし、2nmプロセスの商業化には技術的な課題が伴う。TSMCはすでに3nmプロセスで成功を収めており、次世代技術でも業界のリーダーシップを維持する可能性が高い。

この競争において、Samsungが市場の期待に応えるためには、プロセスの性能だけでなく、製造コストの最適化や製品の差別化が求められる。技術革新と事業戦略を組み合わせることで、Samsungが再び競争の主役となる未来は十分に考えられる。


Snapdragon 8 Elite 2以外への影響 半導体業界全体の勢力図を読む

Snapdragon 8 Elite 2の製造契約は、TSMCとSamsungの競争における単一の事例にとどまらない。この動きは、両社を中心とした半導体業界全体の勢力図にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

たとえば、Samsungが注文を逃したSnapdragon 8s Eliteは、少し低価格なモデルとして2025年初頭に市場投入が予定されている。これにより、スマートフォン市場における競争も一層激化するだろう。

さらに、Samsungは自社開発のExynos 2500にも期待を寄せている。このチップはGalaxy Z Flip 7の一部バージョンに採用される見込みであり、成功すれば同社の製造技術の信頼性を証明する重要な一歩となる。

ただし、Samsungが市場シェアを回復するためには、製品そのものの性能向上だけでなく、顧客とのパートナーシップ強化が不可欠である。半導体業界は技術競争が激化する一方で、長期的な信頼と安定性が勝敗を分ける重要な要素となっている。