クアルコムは、次世代SoC「Snapdragon 8 Elite Gen 3」に向け、サムスンとTSMCの両ファウンドリを活用したデュアル供給体制の構築を目指している。現状、TSMCの3nm技術に依存する形となっているが、サムスンが進める2nmプロセス「ユリシーズ」の進展が鍵を握る。

サムスンが2026年後半までにクアルコムの期待に応える試作チップを開発できれば、再びサプライチェーンに復帰する可能性がある。一方で、高価格の製造技術が市場競争や利益率に与える影響も無視できない課題である。

クアルコムが描く2nm時代の青写真とサムスンの課題

クアルコムが次世代SoC「Snapdragon 8 Elite Gen 3」において2nmプロセスを採用する構想は、業界に新たな競争をもたらす可能性がある。同社が依存するTSMCに対抗する形で、サムスンは「ユリシーズ」と呼ばれる2nmプロセスの開発を進めている。

この技術は、従来のFinFETを超えるゲートオールアラウンド(GAA)構造を採用しており、高性能と低消費電力を実現する狙いがある。一方で、サムスンのファウンドリ事業は、3nm技術における収率低下や競合のTSMCに対する技術的優位性の喪失といった課題に直面している。

この状況が続けば、クアルコムとの連携を維持するのは容易ではない。仮にサムスンがこの試作チップの開発を成功させたとしても、TSMCの市場シェアを奪うにはさらなる信頼性確保が不可欠である。こうした背景は、デュアルサプライヤー戦略の重要性を強調するものと言える。

デュアル供給戦略が半導体市場にもたらす波紋

クアルコムが目指すデュアル供給戦略は、同社のリスク軽減と競争力向上を狙ったものだが、業界全体にも大きな影響を与えうる。このアプローチにより、TSMC一強状態が緩和され、競争が激化する可能性がある。

TSMCが供給する「N3P」技術は既に市場で高い評価を受けているが、サムスンが同等またはそれ以上の技術力を示せば、価格交渉力にも変化が生じるだろう。しかし、サプライチェーンの多様化にはリスクも伴う。複数の供給元を統合管理することで生じるコスト増加や、技術的な不整合が懸念されるからだ。

それでもなお、クアルコムがこの戦略を進める背景には、スマートフォン市場の厳しい利益率競争や供給リスクへの備えがある。これは、他の半導体メーカーにも影響を与える可能性があり、業界の今後を占う鍵となるだろう。

サムスン復活のカギを握る技術革新の行方

サムスンが「ユリシーズ」を成功に導くことができれば、同社のファウンドリ事業は再び脚光を浴びる可能性がある。同社の先端技術への投資や、内部プロセスの改善が収率向上につながれば、2nmノードの商業化も現実味を帯びるだろう。加えて、Galaxyシリーズを含む自社製品への技術適用も競争力の源泉となる。

ただし、こうした楽観的なシナリオにはリスクがつきまとう。過去にはExynosシリーズの性能問題が指摘されており、市場での信頼回復には時間がかかると考えられる。それでも、クアルコムがサムスンに期待を寄せ続けることは、同社の技術革新に一定の可能性があることを示唆している。サムスンの進化は、クアルコムのみならず、競合他社の戦略にも影響を及ぼすだろう。