新たなZen5アーキテクチャを採用したAMD Ryzen AI 9 HX 370を搭載したMinisforum EliteMini AI370は、ミニPC市場における革新的なモデルである。12コアプロセッサによる強力な計算能力、RDNA3+アーキテクチャを採用した内蔵GPUによる約20%の性能向上、省電力性など、多くの魅力を備えている。
その一方で、価格が1,399ドルと高額である点や、プラスチック製ケース、拡張性の制約などの課題も抱えている。高性能を求めるプロフェッショナルやクリエイティブユーザーにとって、必要な価値を提供するのかが焦点となる。
AMD Zen5アーキテクチャがもたらす圧倒的な性能向上
Minisforum EliteMini AI370の最大の特徴は、AMD Ryzen AI 9 HX 370プロセッサに搭載された最新のZen5アーキテクチャである。このプロセッサは12コアを備え、シングルコアおよびマルチコアの性能が前世代に比べ大幅に強化されている。
これにより、AI処理や高度な演算タスクが求められるプロフェッショナル用途にも対応可能である。さらに、RDNA3+アーキテクチャを採用したAMD Radeon 890M内蔵GPUが、従来型の780Mに比べて約20%の性能向上を実現。これにより、軽量な3Dレンダリングや映像編集、ゲーミングも視野に入る。
特筆すべきは、この高性能を実現しながらエネルギー効率にも優れている点である。アイドル時の消費電力は3.4〜7.4ワットと、デスクトップPCの常識を覆す省電力性能を誇る。この点に関してNotebookCheckは、「高性能と省電力の両立は、次世代PCの方向性を示している」と評価している。
一方で、これらの性能は高価格設定と引き換えであり、一般ユーザーにはハードルが高い可能性があると考えられる。
冷却機能と静音性への期待と課題
EliteMini AI370は冷却性能にも力を入れている。2基のアクティブファンを搭載し、プロセッサとSSDを効率的に冷却する仕組みを採用している。通常の使用ではファンノイズが控えめで、アイドル時にはほとんど気にならない静音設計である。
ただし、フル負荷時には音量が47dBに達し、オフィス環境や静かな空間での利用時には騒音が問題になる可能性がある。ファンプロファイルはBIOS設定で調整可能なため、用途や環境に応じてカスタマイズができるのは利点である。
ただし、この手法はPCに詳しいユーザー向けであり、一般の購入者にとってはハードルが高いかもしれない。また、冷却効率の向上と静音性を両立させるためのさらなる改善が求められる。特に、価格帯を考慮すると、より静音性を意識した設計が期待される。
高価格設定と拡張性の制約が示す市場ターゲット
EliteMini AI370の価格は1,399ドルであり、一般的なミニPCの価格帯を大きく上回る。この価格にはAMD Ryzen AI 9 HX 370や32GBのメモリ、1TB SSDといったハイエンド仕様が含まれるが、メモリが拡張不可である点やSSD性能に課題がある点が購入を検討する上での懸念材料である。
この価格設定と仕様を見る限り、ターゲットはプロフェッショナルや高性能を求めるクリエイティブユーザーであると考えられる。しかし、ケースがプラスチック製である点や拡張性に乏しい点が、同価格帯の他製品と比較した際の弱点として挙げられる。NotebookCheckは、「高性能を重視するが、妥協点も多い」と指摘しており、この製品が特定のニーズに対応するためのニッチな選択肢である可能性が示唆される。
独自の考えとして、この製品は革新的な技術を詰め込む一方で、特定の市場に絞った戦略的な設計思想を感じさせる。拡張性や素材に関する妥協は、特定ユーザー層に向けたコスト削減の意図を反映しているのではないだろうか。