マイクロソフトは、Azure専用に設計された驚異的な性能を持つ88コアCPU「9V64H」を発表した。このカスタムCPUはAMDの第4世代EPYCプロセッサを基に、HBM3メモリとNvidiaのInfiniBand技術を採用し、7.0TBpsの圧倒的なメモリ帯域幅を実現する。また、CPU間通信速度は最大800Gb/sに達し、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)や科学研究に最適化されている。

Azure HBv5仮想マシンの一部として2025年にリリース予定であり、計算流体力学や気象モデリングなどメモリ帯域幅を要求する用途に特化している。マイクロソフトと半導体大手2社の連携により、クラウド向けに新たな設計理念を提示する一方、一般市場には販売されない特別仕様のプロセッサである点も注目される。

Azure HBv5仮想マシンで実現される革新のコンピューティング環境

9V64Hプロセッサは、Azure HBv5仮想マシンにおいて真価を発揮する設計となっている。この仮想マシンは450GBのHBM3メモリを備え、7.0TBpsという圧倒的なメモリ帯域幅を提供する。これにより、計算流体力学や航空宇宙シミュレーション、気象モデリングといった、膨大なデータ処理を必要とする分野において、既存のクラウドコンピューティングを大きく超える性能を発揮する。

さらに、InfiniBandネットワーキング技術を採用することで、CPU間通信速度を最大800Gb/sにまで引き上げている。この高効率なデータ転送能力により、数十万のコアへのワークロードスケーリングが可能となり、大規模な科学研究やエネルギー開発といった用途において、新たな可能性を切り拓く。

これらの技術要素は、従来のクラウド基盤では対応しきれなかった複雑なシミュレーションを容易にするだろう。

マイクロソフトがAzureで示した新たな方向性は、単なる性能向上にとどまらず、クラウドサービスの価値を一段と高めるものであり、他のハイパースケール企業にも波及する可能性がある。


独自設計の88コアCPUに秘められた特別な価値

AMDの第4世代EPYCプロセッサを基に設計された9V64Hは、既存の9634モデルを超える性能を持つ。9634が最大3.7GHzの動作周波数と84コアを搭載するのに対し、9V64Hは4GHzで88コアを動作させる。この差は一見小さく見えるが、HBM3メモリとInfiniBand技術を組み合わせることで、9V64Hは実際の運用環境において圧倒的なアドバンテージを持つ。

特に、SMTを無効化した設計は高性能計算におけるキャッシュ効率を最大化し、科学研究や分子動力学シミュレーションにおいて大きな効果を発揮すると考えられる。また、4ソケット設計を採用している点も注目に値する。AMDのロバート・ホルムス副社長が言及した「特別なケースやハイパースケールクライアント向けに必要とされる設計」が、まさにこのプロセッサに該当する。

このような設計の背景には、マイクロソフトがクラウド市場における差別化を目指していることが明確に表れている。独自設計により、クラウドサービスに対する信頼性と価値をさらに高め、競合他社を引き離す戦略が伺える。


新技術の可能性と一般市場への影響

このCPUの特徴の一つとして、14TBのローカルNVMe SSDを備えており、50GB/sの読み取り速度と30GB/sの書き込み速度を実現している点が挙げられる。これにより、科学研究のデータ処理速度や大規模シミュレーションの効率は飛躍的に向上するとみられる。

また、これらの性能は、PCIe Gen5技術を利用した従来のデータストレージソリューションを超えるものであり、研究者やエンジニアにとって大きな価値を提供する。

一方で、一般市場には販売されないことから、直接的な恩恵を受けるのはクラウドユーザーに限定される。これは特注設計ならではの制約であり、他社が追随する場合にも同様の限定的展開が予測される。このような設計が一般的な市場に与える影響としては、HPCやクラウド分野での技術革新が加速し、それがいずれ消費者向け製品にも波及する可能性が考えられる。

マイクロソフト、AMD、Nvidiaという3者のコラボレーションは、クラウド市場に新たなベンチマークを設定するとともに、データ処理技術の未来を示唆するものと言える。