Microsoftは、シカゴで開催されたIgniteカンファレンスで、新しいAzure専用のハードウェアを発表した。特に注目されるのがAMDと共同開発したカスタムプロセッサ「Epyc 9V64H」を搭載したハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向け仮想マシン「Azure HBv5」である。

このプロセッサは、Zen 4アーキテクチャを採用し、最大352コアと6.9TBpsのメモリ帯域幅を実現している。これにより、流体力学やエネルギー研究などの分野における高負荷な計算が可能になる。

さらに、HBv5は新世代のInfinity Fabric帯域幅を活用し、競合製品を大きく凌駕する性能を提供することが期待されている。また、Microsoft初の自社製DPU「Azure Boost」や暗号化専用チップ「Azure Integrated HSM」の導入も発表され、クラウド技術の進化が加速している。この新たなHPCプラットフォームの技術プレビューは2025年に開始予定であり、多くの注目を集めている。

AMDカスタムプロセッサEpyc 9V64Hが切り拓く次世代HPCの可能性

Microsoftが発表したEpyc 9V64Hプロセッサは、Azure HBv5の中核を成す存在である。このプロセッサはAMDのZen 4アーキテクチャをベースに設計され、従来のプロセッサとは一線を画す性能を誇る。特に、4つのプロセッサをフル活用した352コア構成と6.9TBpsのメモリ帯域幅は、計算集約型アプリケーションに理想的な環境を提供する。

さらに、HBM3メモリの採用による400~450GBのメモリ容量は、メモリ使用量が膨大な科学シミュレーションや気象モデルを強力にサポートする。

興味深いのは、このカスタムプロセッサが通常のZen 5アーキテクチャではなく、あえてZen 4を採用した点である。ピーク周波数が最大4GHzに達する設計は、従来の設計から得られる信頼性とパフォーマンスを融合した結果と考えられる。

Microsoftは、Epyc 9V64HのInfinity Fabric帯域幅が従来比2倍であることも強調しており、この技術革新がAzureクラウドの競争力をさらに高めると予測される。このような構成は、計算流体力学や分子動力学など、精密な計算を必要とする産業で特に重要な役割を果たすだろう。

Azure BoostとIntegrated HSMが示すデータ処理の新しい方向性

Microsoftは、Igniteカンファレンスで初披露したAzure Boost DPUにより、データセンター内でのデータ処理の効率化を目指している。このDPUは、Fungibleの技術を基に開発され、ネットワークおよびストレージ処理をホストCPUから分離することで、サーバー全体のパフォーマンスを大幅に向上させる。

特に、高速イーサネットやPCIeインターフェースを備えた完全プログラム可能なシステムオンチップは、従来のハードウェアソリューションでは得られなかった柔軟性を提供する。

一方で、Azure Integrated HSMはセキュリティ面での進化を象徴している。この新しいHSMは、リモートアクセスを必要としないため、暗号化キーの取り扱いにおける遅延を大幅に削減できる。

Mark Russinovich氏は、このチップが機密性の高いデータ環境における最適なセキュリティソリューションになると強調しており、クラウドサービス全体の信頼性を高める役割を担うと期待される。これらの技術は、Microsoftがクラウド基盤の設計においてハードウェアとソフトウェアの統合を推進している証左である。

カスタムシリコンがもたらすクラウド競争の新たな局面

Microsoftが発表したこれらのカスタムシリコンは、クラウドサービスの未来を方向付ける存在である。従来のオフ・ザ・シェルフのハードウェアとは異なり、これらの専用設計はAzureの特定のワークロードに最適化されており、競合プラットフォームとの差別化を図る鍵となる。特に、HBv5のメモリ帯域幅が競合の最大8倍に達するという主張は、Azureの優位性を裏付ける一例である。

一方で、このようなカスタム設計の普及がもたらす課題も存在する。高度に最適化されたシステムは、汎用性に制限が生じる可能性があるため、特定のアプリケーション分野への依存度が高まる懸念がある。

それでも、Microsoftがこの分野における技術革新をリードする姿勢は明確であり、他のクラウド事業者にも影響を与えることは間違いない。クラウド市場におけるカスタムシリコン競争は、今後さらに激化すると予測される。