Appleが予定していた低価格版のVision Proのリリースは2027年以降に延期され、代わりに来年、新たにM5チップを搭載した現行モデルのアップデート版が投入される可能性が高まっている。

サプライチェーンの情報に精通するアナリスト、ミンチー・クオ氏の発言によると、Appleは単にコストを下げるだけではVision Proの成功に繋がらないと判断し、特定層向けの製品としての高価格帯を維持する戦略に切り替えたとされる。

この動きはMetaやGoogleといった競合がオープンプラットフォームで市場を広げる中、Appleがエコシステムを閉じたまま高品質志向を貫くことを示していると考えられる。クオ氏の見立てが正しければ、Vision Proは再び限られたユーザー層向けの高額商品となり、一般消費者が容易に手にすることが難しい製品としての立場を強めることになりそうだ。

Appleが選択した高価格帯維持の戦略とその背景

Appleは、当初予定していた低価格版のVision Proを延期し、2027年以降にリリースする計画にシフトしたとされる。この決定の背景には、単に低価格化だけではプロダクトの成功には繋がらないという経営判断がある。

独立系技術アナリストのミンチー・クオ氏は、「成功するには価格以上の価値提供が重要」と述べ、Appleがただ価格を下げるだけでは消費者にとって魅力的な使用シーンを創出できないと指摘している。クオ氏の言及には、過去のHomePodとHomePod miniの市場展開が重ねられているが、同じ音楽再生デバイスでも、Appleは低価格版でメインストリームへの到達が叶わなかった。

AppleがVision Proの高価格戦略を堅持することにより、ヘッドセットのポジショニングも他社製品とは異なるものとなる可能性がある。クオ氏によれば、Appleは高品質と独自性を重視し、あえて価格を下げずに高価格帯のXR市場で存在感を示し続ける意図があるとみられる。

このようなアプローチは、結果として「早期導入層」として定義される顧客層に向けた製品としての位置づけを強固にすることとなり、一般消費者に普及するための大規模価格調整を回避することにつながるだろう。

MetaやGoogleとの競争環境がAppleのXR戦略に与える影響

AppleのVision Proが高価格帯に留まる一方、MetaやGoogleは、より低価格でオープンプラットフォームなXRデバイスを提供し、広範囲のユーザー層を狙っている。

Metaの最新の$300のデバイス「Quest 3S」はその代表例で、さらに同社はサードパーティのOEMと提携して「Horizon OS」を搭載した多様なデバイスを次々と市場に投入する構えである。この戦略は、Appleの独自エコシステムと対照的であり、オープンなプラットフォームによる広範な普及を目指していると考えられる。

また、Googleも自社の「Google Play」エコシステムにXRヘッドセットのサポートを加える計画を示唆しており、これにより噂されるSamsung/Google/Qualcommのヘッドセットも市場に登場する可能性がある。

こうした競争環境の中で、AppleのXRデバイスが高価格路線を維持することで、大規模普及を目指す他社製品とは異なる立ち位置に固定されると予測されるが、これがAppleの市場シェアにどのような影響を与えるかは注視する必要がある。

M5チップ搭載のVision Proリフレッシュモデルの期待と課題

クオ氏は「Appleが2025年に新たに発表する唯一のヘッドセットは、M5チップ搭載のVision Proのみだ」と述べており、現行モデルのハードウェアリフレッシュとしての役割が強まると考えられる。

このM5チップは、現行モデルの性能をさらに向上させる可能性が高く、特に処理速度や映像表示の滑らかさにおいて一段の進化が期待されている。これにより、ユーザーの体験が大幅に改善され、業務用や専門用途としての利用も視野に入るだろう。

ただし、アップグレードされたVision Proが、Metaや他の競合製品のようにユーザー層の拡大を目指したアプローチを取らない限り、需要の拡大に限界が生じるリスクもある。

クオ氏が言及したように、Appleが選択した高価格戦略が成功するには、特定の市場セグメントでの需要に対応する新たなユースケースや体験の創出が不可欠である。今後、AppleがM5チップ搭載モデルでどのようなアプローチを示すのかが、XR業界の将来を占う鍵となるだろう。