かつてAMDはCPU市場で苦境に立たされていた。インテルに後れを取りながらも、巻き返しを狙ったFXシリーズを投入し、マルチスレッド性能の向上を前面に押し出した。しかし、この試みは大きな失敗に終わった。

FXシリーズは高クロックと多コアを特徴としたが、IPCの低さ、ソフトウェアの最適化不足、異常な発熱などが足を引っ張った。結果として、インテルのSandy Bridge世代に太刀打ちできず、AMDは莫大な損失を計上することとなった。この失敗は訴訟問題に発展し、ブランドイメージにも深刻なダメージを与えた。

しかし、AMDはこの挫折から学び、新アーキテクチャ「Zen」へと舵を切ることで劇的な復活を遂げた。現在、Ryzenシリーズは市場で圧倒的な支持を得ており、当時の苦境を乗り越えたAMDの成長は目覚ましい。過去の失敗が現在の成功につながった背景を振り返る。

FXシリーズの失敗を決定づけたBulldozerアーキテクチャの限界

AMDが高性能を謳い開発したBulldozerアーキテクチャは、実際の使用環境では期待外れの結果となった。その最大の要因は、コアの設計にあった。AMDは1つのモジュール内に2つの整数演算ユニットと1つの浮動小数点演算ユニットを配置し、これを「デュアルコア」として扱った。

しかし、実際には各スレッドのリソースが共有されるため、従来のクアッドコアやヘキサコアに比べてシングルスレッド性能が極端に低下した。特に、当時の主流であったインテルのSandy Bridge世代は、IPC(クロックあたりの命令実行数)に優れ、Bulldozerの弱点が際立った。

また、AMDは高クロック化で性能を補おうとしたが、これが逆に発熱と消費電力の増大を招いた。結果として、消費電力あたりの性能(ワットパフォーマンス)でもインテルに劣り、多くのユーザーがFXシリーズを敬遠することになった。

この設計の欠陥は、当時のマルチスレッド処理を活用できるソフトウェア環境ともかみ合わなかった。ゲームや一般的なアプリケーションは依然としてシングルスレッド性能に依存しており、AMDの「8コア」はマーケティング上の数字に過ぎないと指摘されることもあった。こうした要因が重なり、FXシリーズは市場で苦戦を強いられた。

インテルとの性能差が拡大し、AMDの苦境は深まる

Bulldozerアーキテクチャの失敗により、AMDは一時的にCPU市場での競争力を大きく失った。一方のインテルは、Sandy Bridgeの成功を足掛かりに、Ivy BridgeやHaswellといった後続世代でさらに性能を向上させた。特に、シングルスレッド処理の効率化と電力効率の向上が進み、AMDとの格差は年々広がっていった。

この結果、FXシリーズは登場直後から価格を引き下げる必要があった。AMDはコストパフォーマンスを売りにして対抗しようとしたが、性能面での劣勢が響き、エンスージアスト層やハイエンドユーザーの支持を得ることはできなかった。また、発熱の問題も深刻で、高性能な空冷・水冷システムを求められるケースが多く、一般ユーザーにとって扱いにくい製品となってしまった。

その後、AMDはPiledriver、Steamroller、Excavatorといった改良版を発表したが、根本的なアーキテクチャの問題を解決するには至らなかった。最終的に、インテルのCore iシリーズに対抗できる製品を生み出せず、FXシリーズは徐々に市場から姿を消していくこととなった。AMDが再び市場で存在感を示すためには、完全なアーキテクチャの見直しが不可欠だった。

Zenアーキテクチャによる劇的な復活

AMDはFXシリーズの失敗を受けて、新たなアーキテクチャ「Zen」の開発に着手した。そして2017年、Ryzenシリーズとして市場に登場すると、瞬く間に評価を一新した。Zenアーキテクチャは、Bulldozerの問題点を徹底的に見直し、IPCの向上、電力効率の改善、そして本当の意味での多コア性能を実現した。

この改革により、RyzenシリーズはインテルのCore iシリーズと真っ向から競争できるレベルに達した。特に、マルチスレッド性能においてはインテルを上回る場面も多く、ゲーミングからクリエイティブ用途まで幅広い支持を集めた。さらに、価格と性能のバランスが良く、多くのユーザーにとって魅力的な選択肢となった。

現在では、AMDはデスクトップ市場だけでなく、サーバーやデータセンター向けのEPYC、モバイル向けのRyzenシリーズでも大きな成功を収めている。FXシリーズの失敗があったからこそ、AMDはZenという大きな飛躍を遂げることができたとも言える。今後もAMDの技術革新が続き、競争がさらに激化することが期待される。

Source:XDA