ワイヤレス充電はスマートフォンの進化の中で欠かせない要素となったが、その規格には長年の混乱がつきまとっている。Qi2はこの問題を解決するために導入された次世代規格だが、現時点では統一性を欠いたままだ。アップルとサムスンという業界の巨頭が関与しているにもかかわらず、Qi2の普及は遅々として進んでいない。
Qi2の最大の特徴は、アップルのMagSafeを参考にした「マグネティックパワープロファイル(MPP)」の導入にある。これにより、スマートフォンとワイヤレス充電器の位置合わせが簡単になり、充電効率も向上すると期待されていた。しかし、2年が経過した現在もQi2正式対応のスマートフォンはごくわずかであり、メーカーごとに異なる解釈が混乱を助長している。
さらに、Qi2には異なる仕様の充電器が存在するため、どの製品がどこまでの機能を提供するのかが分かりにくい。「Qi2-Ready」デバイスのように、対応アクセサリーと組み合わせることでQi2の一部機能を利用できるモデルも登場し、ユーザーにとって選択のハードルが高まっている。
現状、ワイヤレス充電の速度や利便性では、OppoやOnePlusが独自技術を活用して大きくリードしている。Qi2が本来目指した統一規格としての役割を果たすには、さらなる時間と業界全体の協調が不可欠だ。
Qi2の普及が進まない理由とは?業界の足並みが揃わない現状
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Qi2はワイヤレス充電の次世代規格として登場したが、導入から2年が経過した現在も対応スマートフォンはごくわずかだ。その背景には、業界の足並みの乱れと各メーカーの異なる戦略が影響している。
ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)には300以上の企業が参加しているが、それぞれの思惑が異なり、Qi2の標準仕様が十分に機能していない。例えば、アップルはMagSafeを自社エコシステムの一部として統合し、Qi2とは異なる独自の制御を加えている。一方、サムスンは「Qi2-Ready」という形で部分的な互換性を確保しつつも、完全な対応は見送っている。これにより、Qi2が「全デバイス共通の規格」として機能するには程遠い状況が続いている。
さらに、Qi2対応の充電器には磁石を搭載したものとそうでないものが存在し、ユーザーにとってどの製品が完全なQi2対応なのかを判断するのが難しくなっている。加えて、メーカーごとの対応状況が異なることで「Qi2の統一規格」という前提が崩れつつあり、Qi2の普及を阻害する一因となっている。
このままでは、Qi2がワイヤレス充電の標準規格として確立されるにはさらに時間がかかる可能性が高い。業界全体が統一された基準を設け、ユーザーが迷わず利用できる環境を整えることが求められている。
Qi2で期待された高速充電はなぜ実現しないのか?技術と制約の現状
Qi2の導入時には、充電速度の向上が大きな期待を集めていた。しかし、現在のQi2対応デバイスのほとんどが最大15Wの充電速度にとどまり、Qi2が従来のQiと大きく変わらないという現実に直面している。
Qi2には「エクステンデッドパワープロファイル(EPP)」と「マグネティックパワープロファイル(MPP)」という2つの充電仕様が存在する。EPPは従来のQi1.2.4にも含まれていた技術で、最大15Wの充電速度を提供する。一方、MPPは磁気による位置合わせを可能にするが、充電速度の向上には直結していない。そのため、Qi2に対応していても高速充電が実現されるとは限らず、多くのユーザーが期待していた「より速いワイヤレス充電」はいまだ実現していない。
また、Qi2の充電速度に関する制約はメーカーごとの方針にも影響されている。例えば、OnePlusは独自の50Wワイヤレス充電技術を採用しており、Qi2には未対応ながらもQi2対応デバイスよりも圧倒的に高速な充電が可能だ。これに対し、サムスンの最新フラッグシップモデルGalaxy S25 UltraはQi2-Readyであるものの、Qi2による充電速度のメリットは得られない。
Qi2が今後本格的に普及し、現在の15Wという制限を超えて高速充電が可能になるには、規格自体の改良と各メーカーの対応が不可欠だ。しかし、Qi2.1など新たな規格が登場しない限り、当面はQi1.2.4と同等の充電速度にとどまる可能性が高い。
Qi2の未来はどうなる?MagSafeとの関係と今後の展望
Qi2は本来、アップルのMagSafeと互換性を持たせることで、より幅広いデバイスが統一されたワイヤレス充電環境を享受できると期待されていた。しかし、実際にはQi2の導入が進まず、MagSafeとの互換性もまだ十分に確立されていない。
MagSafeはQi2と基本的な構造を共有しており、磁気による位置合わせが可能な点では共通している。しかし、アップルのMagSafeは独自の認証プロセスを経ており、MagSafe認証を取得していないQi2対応充電器ではiPhoneのワイヤレス充電速度が制限される場合がある。これにより、Qi2対応の充電器を購入したとしても、iPhoneではMagSafe認証製品ほどの性能を発揮できないケースが生じる。
一方、サムスンやグーグルといった主要メーカーは、Qi2に部分的に対応する動きを見せつつも、MagSafeの完全な互換性には踏み込んでいない。例えば、Galaxy S25シリーズのQi2-Ready対応は、専用ケースを装着することで初めて磁気による充電が可能になるという形をとっており、標準仕様としての統一感には欠けている。
今後のワイヤレス充電の方向性としては、Qi2がより広く採用されるか、あるいはMagSafeが業界の標準となるかの二極化が考えられる。しかし、現時点ではどちらも決定的な立場を築いておらず、ユーザーにとっては引き続き「どの充電規格を選ぶべきか」という悩みが続くことになりそうだ。
Source:Digital Trends