Intelの最新ノートPC向けプロセッサ「Core Ultra 7 255H」が、PassMarkのシングルコアベンチマークで前世代モデル「Core Ultra 7 155H」を32%上回るスコアを記録した。この結果は、Intelの新しい「Arrow Lake」アーキテクチャと改良されたプロセスノードによる性能向上を示している。
255Hは、最新のLion Cove PコアとSkymont Eコアを搭載し、TSMCのN3Bプロセスを採用。従来のMeteor Lakeから進化を遂げたことで、シングルスレッド性能だけでなく総合的な処理能力も約15%向上した。一方で、電力効率の課題が指摘されており、競合であるAMDのRyzen AIシリーズと比べて消費電力あたりの性能がやや劣る点も見逃せない。
ノートPC市場では、AI機能を搭載した高性能CPUの需要が高まりつつある中、Intelの新型プロセッサがどこまで市場競争力を持つのか注目される。特に価格設定がユーザーの選択を左右する要因となりそうだ。
Intel Core Ultra 7 255Hの構成と進化したアーキテクチャの特徴
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Core Ultra 7 255Hは、Intelの最新「Arrow Lake」アーキテクチャを採用し、従来のMeteor Lake世代から大きく進化している。特に、Pコアには「Lion Cove」、Eコアには「Skymont」を搭載し、消費電力と性能のバランスを最適化している点が特徴的だ。このプロセッサは16コア構成で、内訳は6つのPコア、8つのEコア、2つのLPE(低消費電力効率)コアとなる。
これにより、前世代のCore Ultra 7 155Hと比較しても、シングルスレッド性能が大きく向上した。特にLion Coveのアーキテクチャ改良によってクロックあたりの処理性能が高まり、N3Bプロセスの採用により動作クロックも最大300MHz向上している。また、グラフィックス面でも改良が見られる。255HはAlchemist+世代のXe-LPG+ GPUコアを最大8基搭載し、XMX(行列演算)をサポートする。
これにより、AI関連の処理能力が向上し、動画編集やゲームプレイなどの負荷の高いタスクでもパフォーマンスが期待できる。ただし、Intelの最新アーキテクチャ「Lunar Lake」に搭載されるBattlemage(Xe2)グラフィックスには及ばず、この点は今後の世代交代で改善される可能性がある。
このように、Core Ultra 7 255Hはアーキテクチャの刷新によって大幅な性能向上を果たしたが、一方でSoCタイルの設計はMeteor Lakeからほぼ据え置きである。このため、電力効率の向上が限定的となり、競合チップとの比較では一部のシナリオで不利になる場面も考えられる。
PassMarkのベンチマーク結果が示す実際の性能差
PassMarkのシングルコアベンチマークにおいて、Core Ultra 7 255Hは前世代のCore Ultra 7 155Hを32%上回るスコアを記録した。具体的には、255Hが4,631ポイント、155Hが3,500ポイントとなっており、この違いが実際のパフォーマンスにどう影響するかが注目される。
この性能向上の要因として、まず挙げられるのがLion Cove Pコアの改良だ。新アーキテクチャによって命令セットの最適化が進み、シングルスレッド性能が大幅に改善された。また、TSMCのN3Bプロセスの採用により、より高いクロック周波数での動作が可能になり、シングルスレッドベースのタスクで高い効率を発揮している。
一方で、PassMarkのCPU Mark総合スコアでは155H比で約15%の向上にとどまっている。これは、マルチスレッド性能の伸びがシングルスレッドほど顕著ではないことを示している。特に、255Hはハイパースレッディング(HT)を無効化しているため、同じ16コア構成でも155Hの22スレッドに対し、255Hは16スレッドとなっている。
この違いがマルチスレッド処理時の効率に影響を与えた可能性がある。また、255Hの消費電力に関しても課題がある。競合するAMDのRyzen AI 9 365と比較すると、電力制限が50Wの場合、Ryzenの方が優れた効率を示している。このため、特にバッテリー駆動時間を重視するノートPC用途では、Intelの新型チップがどこまで優位性を発揮できるかが重要なポイントとなる。
AI時代におけるIntelの立ち位置と今後の期待
近年のノートPC市場では、AI関連機能の搭載が大きなトレンドとなっている。Intelもこの流れを受けて、Core Ultra 7 255HにはNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を内蔵している。しかし、INT8演算で最大13TOPSの処理能力しか持たず、Lunar Lakeの45TOPSには遠く及ばない点は、今後の競争で不利に働く可能性がある。
現在、AMDは「Ryzen AI」シリーズを強化し、NPU性能の向上を図っている。これに対し、Intelは現行のArrow Lake世代ではNPUの大幅な改良が見送られたため、AIワークロードにおいて競争力の低下が懸念される。ただし、IntelはすでにLunar LakeやFuture Lakeといった次世代アーキテクチャでAI処理能力を大幅に強化すると見られており、今後の動向が注目される。
一方で、Arrow LakeはAI専用ハードウェアよりも、CPUとGPUの基本性能向上に重点を置いている。特にゲーム用途やクリエイティブワークを意識した設計となっており、高クロックのPコアとXMX対応のXe-LPG+ GPUが、一般的なノートPCユーザーにとって魅力的な選択肢となる可能性がある。
今後の課題としては、消費電力と価格のバランスがある。特に、現時点では低価格帯のArrow Lake搭載ノートPCが市場に多く出回っていない点が課題となる。競合のStrix Point搭載モデルがエントリークラスでも約1,000ドルで販売されているのに対し、IntelのノートPCがどの価格帯で提供されるかが、実際の市場シェアに大きく影響するだろう。
Intelは今後、次世代チップでAI機能を強化し、電力効率の向上にも注力すると考えられる。現行のArrow Lake-Hは高性能志向のユーザーに適した仕様だが、バッテリー駆動時間やAIワークロードを重視するユーザーにとっては、競合製品との比較が重要になりそうだ。
Source:Tom’s Hardware