2024年半ば、新たなAndroid向けトロイの木馬「Tria Stealer」が発見された。このマルウェアは、マレーシアとブルネイのユーザーを標的とし、偽の結婚式招待状アプリを装って端末に感染する。インストールされると、SMSメッセージや通話履歴、アプリの通知を盗み出し、Telegramボットを介して攻撃者に送信する仕組みだ。

特に危険なのは、ワンタイムパスワード(OTP)の傍受により、WhatsAppやTelegramのアカウントが乗っ取られるリスクがある点だ。感染は、ハッキングされたアカウントを通じたWhatsAppやTelegramの個人チャット・グループチャットで拡散される。

この手口は、巧妙なソーシャルエンジニアリングと高度な技術を組み合わせたものであり、Androidユーザーにとって深刻な脅威となっている。

感染経路の巧妙さと拡散スピードの危険性

Tria Stealerは、偽の結婚式招待状アプリとして拡散され、被害者にAPKファイルをインストールさせる手法を採用している。特に危険なのは、感染が一度成功すると、被害者のアカウントを利用してさらなる拡散が行われる点だ。WhatsAppやTelegramといったメッセージングアプリが攻撃の媒介となり、感染済みのユーザーが気付かないうちにマルウェアの拡散に加担する仕組みが構築されている。

また、この手口は特定のターゲット地域で効果的に機能しており、マレーシアやブルネイでは結婚式の招待状がデジタル化される文化的背景があるため、多くのユーザーが疑いなくダウンロードしてしまう。サイバー攻撃者は、こうした地域の習慣を巧みに利用し、標的を増やしていることが分かる。このような地域特有の要因が、感染の拡大を加速させている。

この手法が他の地域に広がる可能性も否定できない。結婚式の招待状に限らず、異なる文化に適応したフィッシング手法が導入される可能性があるため、類似の攻撃手法への警戒が必要だ。特に、公式ストア外のアプリをインストールするリスクを認識し、不審なリンクや添付ファイルのダウンロードを避けることが、感染を防ぐ上で重要となる。

Telegramを活用した情報流出の脅威

Tria Stealerは、端末から盗み出した情報をTelegram APIを利用して攻撃者に送信する仕組みを持つ。この方法は匿名性が高く、C2(コマンド&コントロール)サーバーとしての運用が容易であるため、近年のマルウェアで多用される傾向にある。特に、Telegramはエンドツーエンドの暗号化を備えており、セキュリティが高いと認識されているが、その仕組みを逆手に取られることで、攻撃者にとって安全な情報の受け渡し手段となってしまっている。

さらに、Tria Stealerは通知リスナー機能を利用し、WhatsAppやGmail、Outlookなどの通知を監視する。これにより、ワンタイムパスワード(OTP)や認証コードを傍受し、アカウントの乗っ取りを実行することが可能になる。この手法は、被害者のスマートフォンを完全に掌握し、なりすましや詐欺行為に悪用できるため、非常に深刻な問題といえる。

TelegramをC2サーバーとして利用するマルウェアは近年増加しており、従来のサーバー型C2よりも特定やブロックが困難であることが課題となっている。今回のTria Stealerのケースも例外ではなく、通信の暗号化が攻撃者に有利に働く状況を生んでいる。この傾向が続けば、今後のモバイルマルウェアはますます匿名性の高い通信手段を活用する可能性があり、新たな対策が求められるだろう。

ユーザーが取るべきセキュリティ対策

Tria Stealerのようなマルウェアから身を守るためには、基本的なセキュリティ対策を徹底することが不可欠である。まず、Google Playストア以外から提供されるAPKファイルのインストールは避けるべきだ。特に、SNSやメッセージアプリ経由で送られてきたリンクやファイルは、正規のものかどうかを慎重に確認する必要がある。

次に、スマートフォンの権限管理を適切に行うことが重要だ。不審なアプリがSMSや通話履歴、通知アクセスを要求した場合は、即座にインストールを中止し、既にインストールしてしまった場合は速やかに削除する。また、セキュリティソフトを導入し、定期的にスキャンを実施することで、感染リスクを低減できる。

さらに、二段階認証(2FA)を活用することも有効な対策となる。特にWhatsAppやTelegramのようなメッセージングアプリは、アカウント乗っ取りの標的となりやすいため、ログイン時の追加認証を有効にすることで、不正アクセスを防ぐことができる。今後も新たな攻撃手法が登場する可能性があるため、セキュリティ意識を高め、定期的な対策の見直しを行うことが重要となる。

Source:Cyber Security News