韓国の大手半導体メーカー、SKハイニックスが321層のTLC NANDフラッシュメモリを世界で初めて量産化した。これにより、記憶容量の飛躍的な向上とコスト削減が期待される。この新技術は、1テラビットの4D NANDチップをベースに、238層の既存技術を改良したものである。
特にAIデータセンター向けの高性能ストレージ市場での活用が見込まれ、他にもゲームや映像編集、データ保存における需要が拡大する可能性がある。革新的な「スリープラグ技術」によって、300層以上のメモリを単一のチップに組み込むことに成功。
これにより生産効率が59%向上し、従来比でデータ転送速度12%増、読み取り速度13%増、消費電力10%以上削減を実現した。競合するサムスンも400層技術を進める中、業界の進化がさらに加速している。
SKハイニックスの技術革新が可能にした新たな製造プロセスの詳細
SKハイニックスが採用した「スリープラグ技術」は、321層のTLC NANDフラッシュメモリを実現するための鍵となった。この技術は、3つのメモリ層垂直チャンネルを同時に接続するプロセスを最適化し、従来の製造方法よりも効率的な工程を可能にした。特筆すべきは、低ストレス材料と自動アライメント補正技術を採用することで、層の増加に伴う構造的なストレスや整列問題を克服した点である。
さらに、このプロセスは、238層NANDで使用されていた製造プラットフォームを再利用する形で進化しており、59%の生産効率向上を実現。これにより、製造コストが削減されるだけでなく、市場に供給されるSSDの価格も低下する可能性が高い。公式発表では、データ転送速度が12%、読み取り速度が13%向上したとされ、これらの性能向上が新技術の有効性を裏付けている。
この技術革新は、単なる量産化の成功にとどまらず、他メーカーへのプレッシャーとしても機能している。競争が激化する中で、SKハイニックスの動きは、半導体業界全体の進化を加速させるきっかけとなるだろう。
超高密度ストレージがもたらすAI時代の可能性
新たに量産化された321層NANDは、特にAIデータセンターにおいて大きなインパクトを与えると考えられる。この種の高密度ストレージは、大量のデータを迅速かつ効率的に処理する必要があるAIシステムにおいて、欠かせないインフラとなる。SKハイニックスは、初期出荷をAI市場向けに設定しており、その用途の広がりが期待されている。
さらに、この技術はゲームや映像編集といった分野でも重要性を増す。大容量ストレージの需要が拡大する中、100TBを超えるSSDの提供が可能となれば、クリエイターやプロフェッショナルユーザーにとって新たな選択肢となるだろう。また、消費電力の削減により、エネルギー効率の観点からも環境負荷を軽減できる。
一方で、サムスンやKioxiaといった競合他社がさらなる層数増加を目指している中、この市場の競争は一段と激化している。これにより、消費者はより高性能で低価格な製品を享受できる可能性が高いが、それと同時に企業間での技術戦争が新たな段階に突入することも予想される。
サムスンとKioxiaの追撃、400層NANDの未来
SKハイニックスの321層NAND量産に対し、サムスンとKioxiaもすでに次世代技術の開発を進めている。サムスンは400層NANDの開発を目指し、2026年の市場投入を計画している。また、2030年までに1,000層以上のチップを実現する「ボンディング技術」の研究も公表しており、業界全体に刺激を与えている。
一方、Kioxiaも同様に高密度メモリの開発を進め、さらなる競争力を高めようとしている。このような競争は、技術的進化を加速させると同時に、業界全体での標準化や価格競争を促進する可能性がある。しかし、層数の増加には技術的課題も多く、製造コストや信頼性確保の面で新たな壁が生じることが予想される。
将来的には、AI市場にとどまらず、家庭用ストレージやポータブルデバイス、クラウドサービスにおいても大容量・高密度のNANDが普及する可能性がある。これにより、技術革新の恩恵が広く社会に還元されることが期待されている。