AppleがQualcomm依存からの脱却を目指し、独自開発した通信モデムを搭載した初のiPhoneが市場に登場する見通しとなった。2025年には「Sinope」のコードネームで知られるミッドレンジ5Gモデムが初搭載され、iPhone SE 4を皮切りに普及が進む計画である。

Bloombergの報道によれば、この動きはIntelのモデム部門買収や巨額投資を経て実現され、今後数年をかけてハイエンドモデルにも順次採用される見込みだ。初期モデルはmmWaveの非対応やキャリアアグリゲーション制限など課題を抱えるものの、効率性の向上や安全性の強化といった新たなメリットも期待される。Appleは2027年を目標にQualcommを完全排除し、独自モデム技術で市場を席巻する構えである。

Appleの独自モデム開発を巡る試練と戦略的転換

Appleは長年にわたり自社製モデムの開発に多額の投資を行ってきたが、その道のりは平坦ではなかった。当初、Intelのモデム部門を買収したことで開発体制を強化し、Qualcomm依存を迅速に解消する計画であった。しかし、テスト段階で効率性の低さや過熱問題が浮上し、計画は大幅に遅延した。

BloombergのMark Gurmanによれば、この困難を乗り越えるためにAppleは開発プロセスを見直し、外部から専門家を積極的に招へいしたという。この戦略転換は、Appleが単に技術的課題を克服するだけでなく、製品競争力の根幹を強化するためのものである。

効率性や安全性に重点を置いた自社モデムは、従来のQualcommモデムでは難しかったAシリーズチップとのシームレスな統合を可能にし、性能と省電力性を飛躍的に向上させるとされる。Appleのこの長期的な取り組みは、スマートフォン市場における競争の在り方を再定義する潜在性を秘めている。

初の自社製モデム「Sinope」の可能性と課題

「Sinope」とコードネームが付けられたAppleの初の自社製モデムは、2025年に発売予定のiPhone SE 4に初搭載される。このモデムはミッドレンジ5G向けに設計されており、キャリアアグリゲーションが4キャリアに制限される一方、効率性や統合性において新たな可能性を示している。

特に、Aシリーズチップとの統合により、モデムとプロセッサー間のデータ処理が効率化され、通信速度や消費電力の最適化が期待される。しかし課題も多い。初期モデルではmmWave非対応や速度性能の制限が見られ、テストでも4Gbps以上のダウンロード速度を安定して達成するには至っていない。

さらに、高性能を求めるプロユーザー層への訴求力に限界がある可能性がある。ただし、このモデムの成功はAppleの次世代製品への布石となり、独自技術の強みを構築するための重要なステップと位置付けられるだろう。

Qualcommとの完全決別を目指す未来像

Appleは、2027年までに「Prometheus」と呼ばれる第3世代モデムを完成させ、Qualcomm製品を完全に置き換える計画を進めている。このモデムは、AI機能や次世代の衛星通信技術を搭載し、業界標準を超える性能を目指している。

また、iPhoneのみならず、iPadやその他のデバイスにも展開され、Apple製品全体の競争力向上に寄与する見込みである。独自のモデム開発が成功すれば、Appleはコスト構造を最適化するとともに、製品設計の自由度を大幅に高めることができる。

しかし、Qualcommが市場で築き上げた強固な技術的優位性を完全に克服するのは容易ではない。これに対し、Appleが自社技術にAIや衛星通信などの新たな要素を取り入れ、市場全体のトレンドを牽引する姿勢を見せている点は注目に値する。Appleのこの挑戦は、競争力だけでなく、ブランドの独自性を一層際立たせる結果となるだろう。