Huaweiは、米国の輸出規制という逆風を乗り越え、SSDとテープ技術を融合した新たなデータ保存システムを開発した。この「Magneto-Electric Disk(MED)」は、温データと冷データの効率的な管理を1つのソリューションで実現し、消費電力を劇的に削減する仕組みを持つ。

初代モデルは72TBを収容し、ディスクドライブの10%の消費電力で稼働可能。テープとSSDを統合する独自のハイブリッド設計により、データ保存のスピードと容量、コスト効率を両立させた。

MEDは2024年に商業展開が予定され、次世代のデータ保存の基盤となる可能性を秘める。Huaweiはこの技術を通じて、冷データの長期保存と温データの高速アクセスの両面での課題を解決し、AI時代のデータ管理の新たなスタンダードを提案している。背景には米国の制裁による半導体調達の制限があるが、この逆境が新たなイノベーションを生んだ形だ。

米国制裁が引き起こした逆境下の技術革新

Huaweiが開発したMagneto-Electric Disk(MED)は、米国の輸出規制により先進的な半導体へのアクセスが制限される中で誕生した。特に、NANDベースのSSDと古典的なテープ技術を組み合わせるというアプローチは、制限を逆手に取った大胆な設計といえる。

MEDは従来のテープドライブとは異なり、コンパクトな設計を採用し、LTOテープの半分の長さのリールを搭載。これにより、ストレージ効率と物理的なサイズ削減を同時に実現している。

背景には、テープ技術が持つ長期保存性能と低コストが再評価されたことがある。特にAIやビッグデータ時代において、大量の冷データの保存需要が急増しており、この分野でのテープの役割は依然として重要である。Spectra Logicなどの専門家も、テープ技術の有用性を指摘しており、MEDはその延長線上にあるといえる。

ただし、Huaweiが同技術を自社独自で進化させた点は注目に値する。これは単なる制裁回避策ではなく、データ保存の新たな可能性を模索する試みといえるだろう。


温データと冷データを一元管理する未来型ストレージの可能性

MEDの最も特徴的な部分は、温データと冷データを1つのシステムで効率的に管理できる点である。温データはSSDを通じて高速アクセスが可能であり、頻繁に利用されるデータに最適化されている。一方で、冷データはテープ技術により長期保存され、必要時には2分程度のアクセス時間を要する。この時間は欠点と見られることもあるが、大量データの低コスト保存という観点では十分に許容されるものである。

さらに、MEDの初代モデルは72TBのデータ収容能力を持ち、10PB以上の保存容量を備えたラック単位での導入が可能とされている。消費電力もディスクドライブの10%以下に抑えられており、大規模データセンターでの運用コストを劇的に削減するポテンシャルを持つ。これにより、AIやクラウドサービスを支える次世代のデータ保存技術として注目されることが予想される。

MEDの開発には、従来技術の革新を主導するHuaweiの戦略が如実に反映されているといえる。特に中国国内の企業が米国技術への依存から脱却し、独自のイノベーションを推進する一例として、MEDは他国にとっても参考となるモデルとなる可能性を秘めている。


テープ技術の復権が示唆するデータ保存の新たな潮流

HuaweiのMED開発は、テープ技術の復権を象徴している。従来、テープは遅くて旧式の技術と見なされていたが、AI時代の膨大なデータ保存ニーズにより、その価値が再評価されている。特に、長期間にわたるデータの安全な保存とコスト効率の面で、テープは依然として他の技術に対する競争力を保持している。

例えば、2026年には256TB SSDの登場が予想されているが、コスト面ではテープ技術に及ばない可能性が高い。

この文脈で、Huaweiがテープ技術を革新的に再設計し、現代の高速ストレージと統合したことは注目に値する。これは単なる過去の技術の焼き直しではなく、未来のデータ保存に適応した設計といえる。また、MEDの登場は、他企業による類似技術の開発を促進する可能性があり、ストレージ市場全体に波及効果をもたらすだろう。

ただし、テープの復権は技術的利点だけではなく、環境的な要因も関与している。ディスクドライブに比べて消費電力が低いテープ技術は、持続可能性を求めるデータセンターにとって魅力的な選択肢となる。この点で、MEDは単なる技術革新にとどまらず、環境問題への一つの回答としても意義深い存在といえる。