Metaが新たに発表したQuest 3Sは、Snapdragon XR2 Gen 2チップセットを搭載し、よりパワフルなVR体験を提供する。Quest 3と比較して低価格でありながら、優れたハンドトラッキングとカラーパススルー機能を備えている点が特徴だ。一方で、ディスプレイやレンズにはコスト削減のために旧式の技術が使われており、いくつかの点で性能が制限されている。
Quest 3Sの主要スペックと機能
MetaがリリースしたQuest 3Sは、Snapdragon XR2 Gen 2チップセットを搭載し、スタンドアロン型VRデバイスとして新たな進化を遂げている。最大の特徴は、このハイパフォーマンスチップによる2倍のGPU処理能力と、カラーパススルー機能を備えている点である。これにより、よりリアルな混合現実体験を可能にしている。また、Quest 3Sは8GBのRAMを搭載し、複雑なVRコンテンツの処理においても快適な操作性を実現している。
ディスプレイには旧式の単一LCDが採用されており、各目のピクセル数は約1680×1870と推定されているが、Quest 3やApple Vision Proに比べるとやや低解像度である。しかし、これにより価格が抑えられている点が魅力だ。さらに、視野角は89-96°と広範囲をカバーし、上半身のトラッキングにも対応している。重量は514グラムと比較的軽量で、長時間の使用にも耐えうる設計がなされている。音響面では、残念ながら3.5mmのヘッドフォンジャックは廃止され、USB-Cを使用する必要がある。
このように、Quest 3Sは価格と性能のバランスを取ったVRデバイスとして、多様なユーザーに対応した仕様となっている。
Quest 3との違い:性能とコストのバランス
Quest 3Sは、同じSnapdragon XR2 Gen 2チップセットを搭載しているが、Quest 3との主な違いはディスプレイとレンズにある。Quest 3は高精細なデュアルLCDとパンケーキレンズを採用しているのに対し、Quest 3Sはコストを抑えるために旧型の単一LCDとフレネルレンズを使用している。これにより、Quest 3SはQuest 3に比べて画質面での劣化が見られるが、価格設定が大きく抑えられている。
また、Quest 3Sはレンズの分離調整が3段階で固定されており、Quest 3のように連続調整ができない。しかし、Quest 3Sは新たに追加された「アクションボタン」によって、手軽にパススルーと没入型VRを切り替えられる点が新しい機能である。一方で、Quest 3に搭載されているプロジェクターが省かれており、部屋のメッシュ精度は低下している。
価格面では、Quest 3が約500ドルに対してQuest 3Sは300ドルからと、非常にリーズナブルである。コストを重視しつつ、最新のVR体験を求めるユーザーにとって、Quest 3Sは魅力的な選択肢となるだろう。
競合デバイスとの比較:Apple Vision ProやVive Focus Vision
Quest 3Sは、競合するApple Vision ProやVive Focus Visionと比較して大きな価格優位性を持つ。Apple Vision Proは3500ドルという高額な価格設定だが、マイクロOLEDディスプレイやHDR、M2チップセット、眼球や顔のトラッキング機能など、圧倒的なハードウェア性能を誇る。一方で、Quest 3Sは約300ドルと、12分の1の価格で購入できるため、手軽にVR体験を楽しみたいユーザーに向いている。
Vive Focus Visionとの比較では、Quest 3SはSnapdragon XR2 Gen 2チップセットを共有しており、パフォーマンス面では互角である。しかし、Vive Focus Visionはより高解像度のディスプレイと、120Hzのリフレッシュレートを誇るため、より滑らかな映像体験を提供できる。また、バッテリーホットスワップやマイクロSDカードスロット、ヘッドフォンジャックなど、利便性の高い機能が多く搭載されている。
ただし、Quest 3Sは上半身のインサイドアウトトラッキングに対応しており、優れた手や頭のトラッキングを低価格で実現している点が魅力だ。
Quest 3Sがもたらす新しいVRの可能性
Quest 3Sの登場は、VRと混合現実の市場に新たな波をもたらすと予想される。特に、Snapdragon XR2 Gen 2による高性能なGPUと、18PPDのカラーパススルー技術は、これまでにない没入感を提供する。また、低価格にもかかわらず、インサイドアウトトラッキングや上半身トラッキングといった先進的な機能を備えていることは、ユーザー体験の質を大きく向上させるだろう。
これまでのVRデバイスに見られた欠点を補い、Quest 3Sはさらなるリアルさと精度を実現している。特に、暗所でのハンドトラッキング性能がQuest 3を上回っている点は注目に値する。これにより、様々な環境での使用が可能となり、エンターテイメントやトレーニング、教育分野においても新たな利用シーンが開拓されることが期待されている。
Quest 3Sは、VRをより身近で手軽なものにすることで、さらなる普及と成長を促進するデバイスとなるだろう。