MSIはCESにおいて、従来のゲーミングモデルに加え、生産性重視の新型ノートPC「Venture」と「Venture Pro」を発表した。これらは14インチから17インチまでの多様な構成を揃え、AMDおよびIntelの最新プロセッサを搭載。OLEDや高リフレッシュレートのIPSディスプレイを採用し、クリエイターやプロフェッショナル向けの用途を想定している。

特筆すべきは、Microsoft Plutonセキュリティプロセッサや、ノイズキャンセリング機能を含む生産性機能の搭載であり、ハイブリッドワークにも対応可能だ。重量やポート構成に一定の制約が見られるが、堅牢性と信頼性を備えた実用的な選択肢として注目されている。

生産性ユーザーをターゲットにしたMSIの新たな挑戦

MSIはこれまでゲーミングPCで築いたブランドイメージを背景に、非ゲーミング領域への積極的な拡張を試みている。今回発表されたVentureシリーズは、MicrosoftのPlutonセキュリティプロセッサを採用することで、データ保護や企業向けセキュリティニーズに応える設計となっている。これにより、BitLockerやSystem GuardといったWindows機能の安全性が向上し、サイバー攻撃のリスクが軽減される。

特に注目すべきは、AMDのRyzen AI 300シリーズやIntel Core Ultra 7 155Hといった最先端プロセッサを搭載している点である。これにより、複数のタスクを同時にこなすマルチタスク環境でもパフォーマンスを損なわない。また、120Hz OLEDディスプレイや144Hz IPSパネルといった高精細な画面表示技術は、設計者や映像クリエイターといった専門職にとって価値の高い仕様となる。

一方で、重量やI/Oポートの制約は、モバイル利用を重視するユーザーにとっては一考の余地があると言える。特にSDカードスロットの非搭載は、写真や映像を頻繁に扱うユーザーに不便を感じさせる可能性がある。この点は、MSIがゲーミングPCにおける拡張性重視の設計思想とは異なるアプローチを採用したことを示している。


AMDとIntelの選択肢が示す多様性と戦略

Ventureシリーズの特徴は、AMDとIntelという2つの異なるプロセッサオプションを提供することで、幅広いユーザー層に対応している点である。AMDモデルでは、Ryzen AIプロセッサを中心に人工知能支援の処理性能を強化し、AIを活用した生産性向上を目指している。特に「Copilot+ PC」として位置付けられることで、Microsoft OfficeなどのAI統合機能を活用する用途に最適化されている。

一方、Intelモデルは最大96GBのメモリを搭載可能とし、大規模なデータ処理や複雑な計算が必要な場面で優位性を発揮する。また、ディスプレイ技術においても、OLEDとIPSの選択肢を用意することで、クリエイター向けの柔軟性を高めている。この戦略的な構成は、ユーザーが自身の用途に応じて最適なデバイスを選べるメリットを提供している。

しかし、AMDとIntelモデルのGPU仕様がゲーム向けではない点は、エンターテインメント用途を想定していない設計思想を如実に物語る。MSIは、プロフェッショナル用途に特化することで、新たな市場の開拓を狙っていると考えられる。


クリエイター市場におけるMSIの可能性と課題

MSIのVenture Proシリーズは、特にクリエイター市場をターゲットとしている点が顕著である。Nvidia GeForce RTX 3050から4060までの幅広いGPUオプションは、3Dモデリングや映像編集といった高度な作業に適している。また、16インチモデルのOLEDディスプレイは、色再現性と視覚的な正確性を必要とする専門職にとって非常に魅力的な要素である。

それにもかかわらず、I/Oポートの種類が限られている点や、最軽量クラスではない重量設計は、競合モデルと比較した際のハンデとなり得る。例えば、MacBook ProやDell XPSといった同クラスのデバイスは、薄型軽量で高い拡張性を兼ね備えている。一方で、MSIは頑丈さとパフォーマンス重視の設計を選択することで、信頼性を重視するユーザー層に訴求している。

MSIがこの市場で成功を収めるためには、プロフェッショナル向け機能のさらなる強化と、競合との差別化戦略が鍵となるだろう。例えば、バッテリー持続時間やさらなるセキュリティ強化機能の導入が今後の課題として挙げられる。