PC市場は停滞を脱し、2025年には前年比4.9%の成長が見込まれているが、この成長を牽引するのはAI搭載PCではない。TrendForceの調査によれば、Windows 10のサポート終了が企業や消費者のアップグレードを促進する主因となりそうだ。このOSは現在も市場シェアの約60%を占めており、依然として主要な基盤となっている。

一方で、AI搭載PCは高価で進化が初期段階にとどまり、企業や消費者にとって利用価値が明確でない点が課題とされる。AI非搭載PCと比較して10〜15%の価格プレミアムがつくにもかかわらず、実用性を感じられていないケースが多いとIntelの調査は示している。AI技術の可能性は大きいが、現状では市場の主役にはなり得ない状況だ。

2025年の成長は主にWindows 10から11への移行といった従来のPC更新需要に依存する見通しである。この変化がPC市場にどのような新たなトレンドをもたらすのか、注目が集まる。

AI搭載PCが抱える課題と市場浸透のハードル

AI搭載PCは注目を集めつつあるが、市場浸透には依然として多くの課題が存在している。TrendForceの報告によれば、AI非搭載モデルに比べて10〜15%高い価格が一般消費者にとって負担となっている。また、Intelの調査が示すように、多くのユーザーがAI機能を十分に活用できておらず、購入後の学習コストが利用拡大の障壁となっている。

この背景には、AIの活用方法が明確に提示されていない現状がある。企業の現場でも、AI搭載PCがどのように業務効率を改善するのかが分かりにくいとの声が多い。例えば、AI機能の一つであるリアルタイム翻訳や高度なデータ解析は、特定の業種では有用だが、それ以外の分野では即座に効果を発揮しない場合も多い。

一方で、PCメーカーにとってもAI統合には技術的なコストがかかるため、低価格帯モデルへの展開が難しいという現実がある。こうした課題を解決しない限り、AI搭載PCが市場の主力になるには時間がかかるだろう。

Windows 10サポート終了がもたらす大規模な市場変化

Windows 10の公式サポート終了は、PC市場における大きな転換点となりつつある。マイクロソフトの統計では、依然として市場シェアの約60%を占めるWindows 10は、多くの企業や消費者にとって標準的なOSであり、その終焉がもたらす影響は極めて大きい。

特に企業においては、セキュリティリスクの増大がアップグレードを急がせる要因となる。公式サポート終了後は、重要なセキュリティアップデートが提供されなくなるため、業務用PCの更新は避けられない状況だ。また、PCの更新需要は、Windows 11が提供するAI機能への期待とも相まって、PCメーカーにとって成長の追い風となる可能性が高い。

しかし、企業が大量に保有するWindows 10デバイスを短期間で置き換えるのは現実的ではない。ハードウェアコストだけでなく、OSの移行に伴う業務停止や従業員の再教育といった間接的なコストも課題として挙げられる。この点で、マイクロソフトやPCメーカーがどのような移行支援策を打ち出すかが市場動向を左右するだろう。

新たな経済環境がアップグレードサイクルを後押しする可能性

PC市場の成長は、経済環境の変化とも密接に結びついている。TrendForceは、高金利や地政学的リスクが2024年の需要を抑えると指摘する一方で、2025年には米国大統領選挙後の不確実性の減少や金利引き下げが、企業の資金流動性を高める可能性があると分析している。

これにより、経済的な理由でアップグレードを先延ばしにしていた企業が、新しいPCの導入に踏み切るシナリオが考えられる。特に中小企業においては、資金繰りの安定がPCの更新サイクル再開に直結する。Windows 10サポート終了のタイミングと相まって、この動きはPC市場全体に強い成長圧力を与えるだろう。

ただし、地政学リスクの解消や金利の動向は不確実性が高いため、これらの要因がどれほど強く作用するかは未知数である。そのため、企業や消費者が慎重な姿勢を崩さない場合、成長は予測を下回る可能性もある。このような複雑な要素を考慮すると、経済環境とPC市場の相互作用はさらに注視すべきテーマである。